第274話
遭遇した二人から離れて、改めて聞き込みと周辺の様子見を続けていく大我とエルフィ。
しかし、ラント達と同様にそれらしい姿は未だ発見できていない。
こうなると、だんだん一番最初の目撃情報すらも勘違いなんじゃないかと思い始めてしまう。
「それっぽい人影は見えたか?」
「…………ああ、いいや、俺にも見えねえな。もう少し人の通りが多い方に向かってみるか?」
「そうしよう。ただでさえ広い街なんだしな……ところで、少しいいかエルフィ」
「ん、どうしたんだよ」
ここで大我は、ふと移動を再開しつつ、ずっとエルフィに対して気になっていた疑問をぶつける。
「お前、ずっと何か考え事してるよな。いっつもよく喋るのに、今日に限っては難しい顔してるし。何かあったのか?」
「……やっぱそういうのバレるよな。誤魔化し方が下手だなあ俺は」
そこまで思われる程に表情と仕草に出てしまっていたかと、予想外だというリアクションと、やってしまったかという諦めが同時に表出するエルフィ。
これは黙ってても仕方ない、大我になら話してもいいだろうと、前進するペースを落としつつ口を開いた。
「それがな、アリア様との連絡が一切取れねえんだよ。一昨日からずっと」
思い詰めることがあったのだろうか、という相談に乗るような気持ちで耳を傾けていた大我の顔が、その一言で一変した。
「一昨日から……今までそんなことあったのか」
「いいや。少なくとも俺が動き始めてからは一日繋がらないのが二回程度だった。それでもこっちから応答すれば簡易的なレスポンスはくれたしな。けど今回はそれすら全く無い。何の返事も無いんだ」
「……それって、かなりマズイ状況とかでもないのか?」
「アリア様に限ってそんなことはない……はずなんだよな。アルフヘイムの防御は万全だし、ユグドラシル内部への侵入経路も、まずこの街の中心からしかあり得ない。万が一に備えてのセキュリティもしっかりしてるし、そもそもアリア様がどういう存在かなんて、この世界できちんと知ってるのは俺や大我、あとは……エヴァンみたいな奴しかいない。そんな数える程度の人数で影響を及ぼせるとは到底思えないんだ」
改めて耳にすると、アリアという存在がこの世界においてどれ程天上の存在なのかと感じさせられる。
出会う度に真面目なアホという雰囲気も出しているのに。
しかし、ここしばらくは出会うごとに、どこか危なげない雰囲気も憶えていたのも事実。
まさか本当に何かあったのだろうか。そう考えながら進み続けていたその時、二人へ話しかける耳慣れた声が聞こえてきた。
「お、ようお前ら! こんなとこで何してんだ?」
「あれ、アリシアじゃねえか。それに……」
「やあ、久しぶりだね大我君にエルフィも。慌ててる様子だけどどうしたんだい?」
噂をすればと言ったところか、二人が出会ったのは、明らかに妹側から密着しているような距離感のアリシアとエヴァンの兄妹組だった。
あまり対面することの無かった、久方ぶりの強者との遭遇。相変わらずの右半身に走っている黒いひび割れのような紋様には、インパクトを感じさせられる。
「それが…………」
大我は現在自分達が、偽者のティアが現れたということを聞き、まだ遠くへ行っていないであろううちに見つけ出そうと二手に分かれて動いていることを説明した。
アリシアはそれを聞いてマジかよ……と、異質な出来事を見るような目で見ていたが、エヴァンは雰囲気を崩さないながらも張り詰めた空気を纏い始めた。
「なるほど……中々に奇妙な出来事だね。手がかりはそれだけかな?」
「まあ…………本当にこれくらいで」
「しゃーねーな、あたしも協力してやるよ。ティアを騙るそのバカに、あたしの友達に成り代わったらどうなるか思い知らせてやらねえとな」
「ありがとう、助かる」
まだ直接的ではないにしろ、いつか友達への被害になる事象に対しては黙ってはいられない。
アリシアも協力の姿勢を示し、捜索範囲の拡充がはかられることとなった。
それに対して、少し意外そうな顔を見せたのはエヴァンだった。
以前のアリシアであれば、自分と一緒に行動したいとばかりに自分にも協力して探そうと言ってきそうなものだった。
だが今回は、自分ひとりで協力し、兄の話題は出さずに飛び込んでいこうというのだ。
兄大好きっ子だったアリシアの、新しい姿が垣間見える瞬間だった。
「申し訳ないが、僕は一人で別行動にするよ。その話を聞いて、警戒しないといけないことがあるからね」
「わかりました。エヴァンさんも気をつけて」
その一言でもとてもありがたいと、大我は頭を下げつつ、改めて街の方へと走り出していった。
「んじゃ、あたしもいっちょ……」
「ちょっと待って。アリシア、少し頼みたいことがある」
その後ろをアリシアがついて行こうとした直後、エヴァンが一度引き止める。
何か伝言でもあるのだろうかと考えながら振り向くと、エヴァンは自身の武器である二本のナイフのうち一本を手渡した。
自分の身体の一部のように扱い、大切にしていたそれを、片方だけとはいえ手渡すとは、一体どんな理由があるのか。
アリシアは少しの間きょとんとしていた。
「これを大我君に渡しておいてほしい。これからおそらく良からぬことが起こる。それは一つの闇を暴く為の鍵になるんだ」
詳細は言わない。しかし確実に大切なことなのだろう。
兄のことはとてもよくわかっている。それ以上は追求しない。
アリシアは黙って頷き、ナイフを懐にしまって改めて大我達の方へと走っていった。
その背中を眺めるエヴァン。まるでその気分は、巣立ちの雛を見ているようでもあった。
「アリシアも成長したなぁ………………本当に。さてと、僕は僕の仕事をしないとね」
エヴァンも大我達に背を向け、己の行うべきことに向かって歩き出す。
一歩進むごとに、その視線は様々な方向へに徹底的な警戒心を持って向けられる。
道端を動くアリの動作すら逃さない。エヴァンの狙いは、ある一点に絞って神経を注がれていた。
「一体どこにいるんだ、セレナは」
* * *
大我達にアリシアを加えて、再び偽ティアの捜索に動き出す一同。
しかし、次に出てきたのは、時間帯の問題もあってやや人通りの多いストリート。
これだけ人がいては、移動や視界の障壁もあっても見つけることは難しい。
「出てくるところ間違えたかな……」
「道なりに進んでたら出るとこなんだからしょーがねえよ。俺が上から見てやる」
人の流れを唯一無視できるエルフィが、一旦大我の肩を離れて飛び上がった。
近場から無数に通る人の顔を一つ一つ簡易的に確認していくが、やはり近辺にはそれらしい姿は写らない。
もう少し移動してみようかと考えたその時、エルフィの視線はある一点に注がれた。
「あれは……!」
そこに写ったのは、紛れもなく、ラントと分かれて行動したはずのティアの姿そのものだった。
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