第270話

 昼食を終えてから少しの間を置いて、大我、エルフィ、ティアの三人で街中へと足を動かした。

 この日は午後からの青果店の手伝いもなく、自由時間になっていることもあり、気分転換に街道を歩き、気分が動けば買い物。

 もしちょうどいい依頼でもあればそれを受けてみようかと、今までの日々と変わらない、何気ない日常を進めようとしていた。


「ティア、率直に意見を聞いてみたいんだけどさ……俺、魔法上手くなってると思うか?」


「どうしたのいきなり?」


「ほら……エルフィやティアとか、色々教えてもらいながら自分なりに練習はしてるんだけどさ……今までよりかは色々できるようになってるかもしれないけど、最近実感が無いというか。だから、客観的に見た評価が欲しいんだ。元々魔法の事なんてこれっぽっちも分からないし」


「うーん……私は上手くなってると思いますよ。なんというか、最初の頃はぎこちなさも無くなって当たり前みたいに手慣れてますし。この間の暴れてたキメラ退治の時も、もう魔法自体の練度もしっかりしてたって印象があったから……だから、もっと自信持って!」


 日々の鍛錬を欠かさず、地道に積み重ねた結果を、今一番身近な相手が褒めてくれる嬉しさが胸一杯になっていく。

 少し照れながらありがとうを返すと、その褒めたお返しと言わんばかりに、ティアもちょっと話しにくそうに視線を反らしつつ同じように質問をした。


「あの…………私も聞きたいんですけど、一緒に戦ったりクエスト手伝ったりした時……私も前より強くなってると思いますか?」


「強くなってる。間違いないさ。実際何度も助けられたしな……けど、俺も戦いのことはよくわからない部類の人間だからさ、うまくどうこうってのは言えないけど、ラントやアリシアからはティアが戦いの時にどうすればいいのかよく質問に来るって話は聞いてた」


「あ、あの二人…………やっぱり言っちゃってたんだ……」


 本心としては別に構わないとは思っているが、いざ相談していることを他人から口にされるとやっぱりどこか恥ずかしくなってしまう。

 本来ならばこういうことは、エヴァン達や騎士団の人々のような専門家に相談する方が早く確実だが、大我の魔法とティアの戦闘は、持ち前の資質が良くそれなりに経験を積み始めた程度で、まだ中級者入りたてといったところ。

 だから今は互いに実力の伸びを共有し合って、気持ちを高めていく。

 そんな光景は、傍から見たら良い雰囲気の二人のようにも見えた。


「まあ、これからもお互い頑張ろうぜ。この先何があるかもわかんないからさ……な、エルフィ」


 そんな半分二人だけの世界にもなりかけたところで、そろそろエルフィが茶々を入れてくるんじゃないかと思いつつ話を振る。

 

「……ん、ああそうだな」


 しかし、エルフィはいつもの冗談混じりの軽い態度を示してはおらず、どこか神妙な面持ちで簡単に不意を突かれたような返事をした。

 そういえば今日は、起きてからいつもこんな調子だったような気がする。

 大我はじっと見つめながら、一体何かあったのだろうかと声をかける。


「どうしたエルフィ。なんか様子が変だぞ」


「ああいや、なんでもねえよ。ちょっと考え事してただけだ」


 そこまで深刻なことじゃないと言うような声で簡単に返すエルフィ。

 だがそれとは裏腹に、声色からは、平時の態度を保っているつもりでも、いつもの余裕の態度が見られないように感じられた。

 一体何があったのか。質問をぶつけようとしたその時、道中ですれ違いざまに一人の男が話しかけてきた。


「あれ、ティアちゃん達じゃないか。もう家に戻ってたのかい」


「こんにちはドットさん。家に戻ってた……というのは?」


 その男性は、ティアの両親のお得意様であり、いつも多めに果物を購入しては気さくに店舗前話しかけてくる、フルーツ系スイーツ店を営んでいるドットという人物だった。

 比較的近い場所に開店していることもあって、たまにティアも立ち寄っている。

 今日も気前よく話しかけてきたが、その第一声には大きな違和感がついてきた。


「あれ、さっきうちの前を通ってたじゃないか。挨拶も返したぞ? まさか忘れちまったのかい?」


 大我達を包む空気が、一瞬にして張り詰めた。

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