14章 生命の鉄拳

第211話

 ネフライト騎士団本部内に存在する特別円卓会議室。

 そこでは隊長クラスの人物のみが一堂に会し、口外の憚られる情報の発信と現状問題の共有等、その都度の議題を介してアルフヘイムやその周辺に対する対応の方針を決定している。

 そしてその会議を行う頻度は決して多くない。招集がかかるというということは、未知なる脅威の兆候が見られるということ。

 その為、ネフライト騎士団の隊長達は特別会議室の利用を聞かされた瞬間、それぞれに意識を引き締めた。

 そうして集まった、類稀なる実力を誇る、それぞれの隊の長を務める実力者達。

 

 現世界の神であるアリアと繋がるネフライト騎士団団長、リリィ=フィデリッテ

 アルフヘイム警備、護衛、治安維持を務めるネフライト騎士団第一部隊隊長にして副団長、エミル=ヴィダール。

 戦闘専門部隊、ネフライト騎士団第二部隊隊長、バーンズ=アームストロング。

 隠密、潜入、調査専門部隊、ネフライト騎士団第三部隊隊長、ミカエル=テオドルス。

 医療専門部隊、ネフライト騎士団第四部隊隊長、エウラリア=ローラン。


 それぞれのトップに立つものが集まり、互いに顔を見合わせる。

 そして、その五人とは別にまた二人、騎士団外からの招待者が座っていた。


「あの、詰めてもよろしいんですよ?」


「僕は構わないんだけど、向こうがね」


「…………チッ、お前の隣になんか行きたくもねえよ」


 皆が察して黙っている中で、どうしても気になってその二人の招待者の間に空いた大きなスペースに対して、エウラリアが口を開く。

 その二人の人物とは、アルフヘイムにてトップクラスの実力者であるエルフ、エヴァン=ハワード。そしてそのエヴァンをやや一方的に強くライバル視している人狼、迅怜だった。

 かつてアリアによって選ばれた実力者達の集団、神伐隊の二人。そしてバレン・スフィアによって壊滅させられた中での数少ない生き残りである。


「最近姿を見てなかったが、元気そうで安心したぞエヴァン。グレイスさんの調子はどうだ?」


 同じ炎の使い手として、B.O.A.H.E.S.との大規模戦闘以降に新たな交流が生まれたバーンズとエヴァン。

 互いに気安く話せるような仲となったが、ここしばらくは姿を見かけることすらなかった。


「うん、少しずつ介抱に向かってる。ようやく心の傷も癒えてきたってところかな」


「そいつぁよかった。今度チーズケーキを持っていこう。ケルタ村で中々にデザートに合うチーズを見つけてな。二人でゆっくり食べるといい」


「ありがとう、バーンズ」


「それはそうと、お前らの知り合いもまとめて来てくれるみたいな話じゃなかったか?」


「そのはずだったんだけどね……急な話なのもあって、ダメだった」


「そうでしたか……それは仕方ありません。招待した私が言うのもおかしいですが、皆さんにもそれぞれの生活はありますからね」 


 エミルが棘を作らないようにと、それとなくフォローを置いておく。


「けど、クロエさん……だったか。あの人も来ないとは意外だな。それなりに余裕があると思ったが」


「あいつは追っかけてる小説の発売日だからっつって、朝っぱらから並んで買って、ずっと屋敷に籠もってるよ」


 話に聞いた通りの本の虫だと納得するバーンズ。

 一通りの会話の区切りがついたと思われるタイミングで、ミカエルが溜息をついてちょっとだけ嫌味ったらしく口を開く。


「そろそろいいかな? 僕達は井戸端会議のためにここに集まったわけじゃないんだ。そういうのはこの後にでもやってほしいな」


「ああすまない、つい話し込んじゃって」


「…………チッ、はいはい」


「悪いな美青年、流れを滞らせちまった」


「せめて名前で呼んでくれバーンズ! 僕が美しいのは事実だけど、それとは」


「ミカエル、君も話題を作ってどうする。注意した上でそれじゃあ意味ないだろう」


「申し訳ありません、副団長」


 真面目に議題に入る前に、変な盛り上がり方をし始める一部隊長格とゲスト達。そんな皆の姿を、少し冷めた眼でじっと見ているエウラリア。

 どれだけの類稀なる能力を持っていても、人格面はやはりそれぞれ尖ったところもあり、一筋縄ではいかないことが察せられた。


「さて、そろそろ落ち着いたかな? 場が温まったと解釈して、このまま進めていこうか」


 ほんの一瞬の空気の隙間にちょうどよく割り込み、会議の本題進行へと舵を切るリリィ。

 そんな完璧なタイミングでの口挟みに、エミルは真剣な表情を保ちながら、内心でさすがリリィ団長! と、称賛していた。

 そして、流れるようにエミルから取り仕切る。


「本来この特別会議は、私達騎士団隊長のみで執り行う物です。その場にエヴァンさん達を呼び寄せたのには大きな理由があります」


 直前までどこか柔らかかった空気が、一瞬にして硬直し鋭くなる。

 この切り替えの早さも、彼らの隊長たる、そして強者たる所以でもあった。


「ここ一年の間にアルフヘイム、そしてアルフヘイム周辺にて頻発している幾多の騒動についてです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る