第210話

 次の日の朝。

 一通りの荷物を揃えて、ルイーズ邸の前で揃う一同。

 ラクシヴが右手をヘルゲンを包んだ肉袋に繋げてバッグのようにして持ち運んでいる。

 皆で一時的な共同生活を過ごしていた時のように、黙々と荒れた土地の整地作業と、無数の残骸をかき集めるワルキューレ達。

 それらを彼女達に任せ、ルイーズとメアリーが大我達を見送るために外で彼らの前に姿を現していた。


「皆さん、本当に……ありがとうございます。こんな私を守っていただいて……その…………えっと…………ありがとうございます」


 溢れる感謝の言葉をうまく言語化できず、ただお礼の言葉を繰り返すことしかできないルイーズ。

 しかしその気持ちは十二分に伝わったと、大我達は笑顔を見せた。


「とりあえずこいつはうちの街の騎士団共に明け渡しておく。たぶん近いうちにそいつらが訪ねてくるだろうから、その時は警戒せずに迎えいれてくれ」


 物を指すようにこいつと人差し指でツンツンと肉袋を示しながら、これからやってくるであろうあれこれについて話しておく迅怜。


「はい、わかりました…………どうか、帰りの時もお気をつけて」


「ルイーズさんこそ、また襲われないように気をつけて」


「私は……たぶん、前より大丈夫です。皆さんに勇気をもらいましたから」


 ルイーズ本人が言う通り、その顔つきは出会った当初とは違い、密かな自信が身についていた。

 大我達との出会いと、ヘルゲンと対峙した時の振り絞った頑張りが、確実に実を結んだのだった。

 そんな彼女の後ろで、メアリーは相変わらずの固まったような笑顔のまま、主人の方を見つめていた。


「それじゃ、そろそろ俺達はこれで。ありがとうございました!」


「こちらこそ! また会うときまでお元気で!」


 大我達は、迅怜以外最後まで手を振りながら、ちょっとだけ名残惜しくもその場所をゆっくりと歩いて去っていった。

 彼らの姿が見えなくなるまで、少し涙を浮かべながら応えるように手を振り続けるルイーズ。

 そして、完全にその姿が見えなくなると、ふっと息を取り直してメアリーの方を向いた。


「さ、そろそろ私達も手伝おっか」


「明日明日のnnnnよよ予定、#3*#????」


 相変わらずのぐちゃぐちゃな言葉と電子音を発するメアリー。

 これからはまた、自分とそのアンデッド達との生活が始まる。今までに感じたことのない寂しさを覚えたが、みんなと一緒なら生きていける。

 その区切りも兼ねて、ルイーズはヘルゲンが率いたネクロマンサー達の残骸、それを再利用ではなく供養をするために、一歩歩き出した。




「まさか、ネクロマンサーの調査だってのにこんなことになるとはな」


「しかもラクシヴとも遭遇するなんてな」


「俺こそ、あんたらにこんなとこで会うとは思ってなかったよ」


 一騒動を終えた帰りの道中で思い出話に華を咲かせる一同。

 そんな明るい空気の一方、一緒にそんな会話に参加するティアは、たまに何かを思いつめ考えているように目線を空気に向け、迅怜はひたすら考え込むように黙り込んでいた。


「…………なんか、妙な予感がするな。何か起きる前兆なのかそれとも…………チッ、今考えても埒が明かねえな」


 獣の勘とでも言うべきか、迅怜の直感が何か奇妙な気配やきな臭い何かが近づいてるような気配の指先に触れる。

 バレン・スフィアの消滅とB.O.A.H.E.S.の再封印によって平穏は取り戻された。

 だが、良からぬ何かがアルフヘイムに、自分達に忍び寄っているような予感が脳裏にこびりつく。それは、深夜にティアから迅怜に話されたもう一つの質問からも感じるものがあった。

 だが、その正体や手がかりを掴むには、今の自分には情報が足りなさすぎる。

 帰るまで新しい何がが掴めないなら、今はそれについて考えるのはやめておこうと、迅怜は肩の力を抜いた。

 そして、大我達はアルフヘイムまでの帰り道、大事もなく帰還を果たし、クエストから派生した予想外の戦いの幕を下ろした。

 しかし、薄暗い影は小さく、そして確実に大我達の足元まで近づいている。

 それが牙を剥くのは、果たして何時か。

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