第205話

「気持ち悪いの作りやがって!!」


 一方の迅怜とレギオンの一騎打ち。

 ヘルゲンとは独立して動くその塊が有する四肢と頭部は、飾りではなく全て本来の機能を有していた。

 頭部についた眼球の数だけ視界があり、本来の物よりも極端に劣化しているが、独立した思考を有している。

 その気になれば、目に映る全方位の迎撃対象を同時に対応することが可能である。

 だがレギオンは、一貫して迅怜に狙いを定め、腕や足を伸ばし魔法を放ち、暴走した人造生物のような暴れっぷりを見せていた。


「俺を狙ってる以上これ程やりやすいことはねえ。殺意の攻撃が一番わかりやすいからな」


 おそらくレギオンに下したヘルゲンの命令は、迅怜だけを狙うといった厳格なものでは無い。

 その気になれば、ちょっとしたキッカケで大我やティア達へ矛先を向けるだろう。

 迅怜はそれをさせないようにと、人狼特有の身体能力で大きな無駄を含ませながら動き回り、全身の視界に自分を入れるように立ち回りながら、微小な電撃を放って自分を攻めるように煽り立てた。

 命令に忠実なアンデッドが集まっても、ネクロマンサーとの関係の本質は変わっていない。

 迅怜はそれを半分ギャンブル的な判断で行動方針を決め、レギオンを相手するには自分が最も最適だろうと受け持った。


「dpwmpあ#%*⬛???」


「軽く詠唱撃つ暇もねえな」


 レギオンの攻撃は非常に熾烈で、無数の攻め手を一点集中させられれば、簡単な魔法すら放つ余裕も与えず、疲れも知らずとにかく対象が死ぬまで殴り、打ち、放つ。

 一発一発も中々に重く、並の人物ならすぐさま吹き飛ばされ潰され、レギオンの糧にされてしまうだろう。

 これは迅怜だからこそ可能にしている対応である。

 避けては斬り裂き、一定の範囲を超えないように大きく立ち回る。止まる猶予は無く、手足を止めずに軽い電撃の牽制を撃ってとにかく動く。


「これじゃジリ貧にしかならねえ。アレを使うか」


 だがいくら向かってくる手足を断ち切っても、しばらくすればひとりでにカタカタ動き始め、再びレギオンの方へ戻っていく

 地面に散らばる皮膚と金属部品の数は増えていても、どれも決定打とは程遠い。

 迅怜はある一点のタイミングを狙い、長時詠唱を発動させた。

 発動者の動作全てが詠唱となる長時詠唱。長ければ長い程魔法は強力となる。

 まさに今の迅怜にはおあつらえ向きだった。


「タイミングは大我が奴を倒す瞬間。そこだけか」


 自分より間違いなく実力のない者に本命を任せるという賭け。

 だが不思議と、迅怜の中に不安は無かった。

 本命であろう即死洗脳能力や穢れが効かないイレギュラー性、なにより未知数の可能性を感じる。

 その未知を信じてみようと、迅怜はこの役を買って出たのであった。

 何より今信じず下手に爆散させれば、散らばり制御の効かなくなった身体が無差別攻撃を行いかねない。

 この選択は必然だった。


「こんな役回り、エヴァンとアレクシスぐらいしかできなさそうだならな………………」


 事実、今の迅怜の役目を終えるのは、名前を挙げられた人物やネフライト騎士団の隊長レベルぐらいである。

 が、自ら口に出した名前が、自爆的に迅怜のスイッチを入れた。


「あの野郎に出来て俺に出来ねえことがあるかよ!!! やってやろうじゃねえかオラァ!!!」


 あいつも出来るんだろうなと思い始めた瞬間にニトロのようなライバル心が爆発し、絶対にこいつらをぶちのめしてやると噴き上がった迅怜。

 自分で言っておいて自分でブチ切れる。迅怜の自給自足的精神燃料は一気に消費され、レギオンの攻撃をさらに捌くようになった。

 

 


 一方で、ルイーズを守るティアとラクシヴに疲れが表れ始める。

 向かってくる残りのアンデッドにひたすら防戦を行う持久戦。しかしそれが、ラクシヴとティアには辛いものがあった。


「大丈夫ですかティア!?」


「だ、大丈夫……ちょっと、疲れてきただけだから。ラクシヴこそ大丈夫なの……?」


「私はいけるよ…………たぶん」


 数が減ったとはいえ、絶え間なくやってくるアンデッドに疲労が生まれ始めるティアと、ややエネルギー不足によるスタミナ切れが二人を蝕み始める。

 短期決戦は皆との協力で何度も発生していたが、ここまでの持久戦は体感したことがない。

 ラクシヴは取り込んだ生物の記憶の中にこそあっても、自身が体感したわけではない。

 燃費の悪さと集団戦闘の経験の少なさが重なり、体力を多く消費していた。


「これ以上二人を、みんなを消耗させないように私ができること……」


 誰にも気付かれないようにと、今自分ができることを独自に進めるルイーズ。

 己が持つネクロマンサーの力で、出来る限りの恩返し。せめて少しでも力になればと、天性と呼ばれた能力の根を少しずつ伸ばしていった。

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