第191話
こうして、大我達と珍しいネクロマンサーとの不思議な共同生活が一時的に始まった。
基本的に自給自足によって賄われる生活。朝起きてから朝食を食べ、畑を耕し、木々を集め、昼食を食べ、それまでと同様に様々な作業をこなし、夕食も食べ、ちょっと大きめに作った浴室に湯を張り、身体を休めて床につく。
その一方で、優れた察知能力を持つラクシヴと嗅覚と勘に長けた迅怜が、作業も兼ねて森の中へと見回りを受け持った。
両者とも足音を可能な限り立てず、時には木の上に移動して高所から監視。
ラクシヴに至っては腕を高く空へ伸ばし、木肌に擬態させつつ眼球を生み出し、そこからの視界を利用しての確認を行っていた。
「なんつーか……なんだその能力。元がアレだから理解はできるけどよ」
「スライムみたいな軟体だから出来ることだかんね。表に出てわかったけど、この身体って結構便利だよ。こういう時だけ、俺の親…………親? まあわかんないわ。アレには感謝しとーよ」
ちょっとの間を置いた後、迅怜は少しだけ聞きにくそうに頬を爪で掻きながら質問した。
「なあ、ラクシヴとか言ったか。お前、勝負事は出来るのか?」
「出来るっちゃ出来るわよ。そこまで慣れちゃいねえけどさ」
「ならいつか、お前と手合わせ願いてえ。ただ襲ってくるだけの化け物とやるのはめんどくせえが、そういう能力なだけってんならやり甲斐があるからな」
ラクシヴはちょっとだけ悩むような声ではにかんで見せた後、うんっ、と声を出して答えを返す。
「いいよ。あんまりそういうの慣れてないけど、やってみてもいいかな」
「ありがとよ」
「けど、いきなりそういうこと言い出すなんて、戦闘狂って感じすんね」
「勝負は大好きだからな」
根本的に存在の違う二人の奇妙な関わり合い。
かつての世界の脅威だった存在から産まれた者と対峙した者。二人の間に敵意は無く、初対面の相手への敬意と興味がある。
どれだけ生きていても、戦っていてもまだまだ世界は広いと、それぞれに多様な面白いという感情を抱きながら、改めて作業に戻った。
* * *
ある時の夜、ほぼ即席に作られた床の間で眠っていた大我達。迅怜とラクシヴは一日ごとの交代制で外部への監視役を請け負い、片方は神経を研ぎ澄ませた分の英気を養っていた。
「水飲みすぎた…………ふぁ……ぁ…………」
就寝前、宿屋のようは木造りの浴槽に張られた湯を楽しんだ後、元々の外気とエルフィの気遣いでキンキンに冷やされた水をがぶ飲みしていた大我。
すぐには訪れなかった飲み物の反動が、遅れて面倒なときにやってきたと自業自得気味に思いながら外へ出ようとしたその時、ルイーズの個人部屋から何やら様々な雑音が聞こえてきた。
金属がぶつかりあうような、ざらざらと砂が落ちるような、ごそごそと物が動くような、印象それぞれバラバラな物音たち。
部屋のドアは僅かに開いており、まるで友人や家族の夜ふかしの現場を目撃したような感覚だった。
「何やってんだ一体」
大我の内心に宿る好奇心の炎が燃え上がりかけたが、つい数日の間に出会ったばかりの、しかも女性の部屋を勝手に覗くようなことは倫理的にまずいだろうと、大我は声を出さずに言い聞かせ、その場を去ろうとした。
その時、ドアの向こう側から何かが衝突するような音が鳴り、直後大きく扉が動き始めた。
大我は咄嗟に身体を後方に動かし、ぶつからないように回避する。
すると、まるでサスペンスの死体発見のような様相で、一体の顔半分の皮膚が剥がれたワルキューレが倒れ込んできた。
「うわっ!?」
突然のホラー的光景の不意打ちに思わず声を上げてしまった大我。
それからすぐ、慌てた様子で部屋主のルイーズが姿を現した。
「だ、大丈夫? 怪我増えてない……? あっ、た、大我さん……大丈夫ですか……?」
おろおろと膝を屈めて狼狽えながら、アンデッドに大我にと視線が交互に何度も移り変わる。
大我の方は全くのノーダメージだが、倒れたワルキューレの方は、内部機構の露わになっている瞳の方を点滅させつつ、無表情のままびくんと規則的に痙攣していた。
「俺は大丈夫です。それよりそっちは……というか、何してたんです?」
「ああ、あの、えっと……私のアンデッドの修復……というか、治癒……というか、処置をしていました」
背を低く保っているルイーズの向こうには、座り込んだり倒れたりと、様々な体勢で待機する何体ものワルキューレ、そして笑顔のように見える無表情でぺたんと座るメアリーの姿があった。
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