第179話
手続きを終えて道中で軽い準備を済ませ、南門からアルフヘイムを出発した大我達。
四人が目指すは南西の方向。途中までは道なりに舗装された場所を歩くが、それ以降は実質的に森の中へ入ることとなる。
その道中、四人の話題は紹介所にて発した大我の一言から始まった。
「俺だって予想外だよ。大我がネクロマンサー知らないって」
「仕方ねえだろマジで知らないんだから……名前とかはなんか見たことある気がするだけで」
「てことは、今までに遭遇してもいねえわけか」
「そうですよ。なんかもやっと知ってるような知らないようなって感じで、それがなんなのかってのはまあ……知らない」
過去の創作物やゲーム等に於いて、ネクロマンサーという単語は見かけたことがあるような気もする。
だが、その意味がどういうものなのかという説明をされたような覚えが無い。
そのため、単語に付随する実態が大我の中で構築されていなかった。
「しゃーねーなあ、俺が説明してやるよ。というか、わかってないと間違いなく致命的だからよ」
「致命的とまで言われるか……」
「ネクロマンサーってのは、簡単に言えば死者を使う魔術師のことだな。死霊術師とも言うか。死体をアンデッドやスケルトンにして復活させて操ったり、霊を操作したり、あるいは降霊させたり……」
「ああ、なんかイメージ湧いてきた」
ネクロマンサーとは言われてなくても、それらしいタイプの存在はどこかで見たことがあるかもしれない。
脳内で単語と存在がリンクし始め、くっきりと実像が作られていく。
「で、ネクロマンサーってのは大抵一度穢れに侵されてるんだ。この世界に於いて、幻惑系魔法や死霊術師は、穢れにやられてそこから何かしらで克服したか、そのままおかしくなってその道に堕ちたかが大半だ。中にはその二つが無くとも自ら学んだようなのもいるけどな」
その追加説明で、大我はぽんっと一つの納得が出来た。
「ああ、だからネクロマンサーが出たってだけで多少の騒ぎになるのか」
「そういうことだ。奴らがいるところには常に死体がある。生きているものではなく死んでいるものに興味があるからな。そしてそういう奴らは得てして俺達のような生者を敵視している。まず危険にしかならねえ」
横から迅怜が追加の説明を与える。
ネクロマンサーいるところに死の臭いあり。大我がやってきてからしばらくは特に、その死骸、残骸が発生することが特に多かった。
それを考えれば、死体漁りに精が出ることは間違いない。
全てのピースがはまった感覚を味わった大我は、ようやく理解したと何度か頷いた。
「ありがとう、だいたい理解できた。けど、集落って言ってたよな……そんなのがたくさんいるってことなのか……?」
「どうだろうな。奴らは組織を組むことは少ない。大抵単独行動だ。だが徒党を組むなら面倒臭さは段違いだな」
スケルトンやアンデッドとは何度も戦ってきた大我には、一体一体は弱くとも数が増えれば非常に面倒な存在だということは嫌と言うほど身にしみている。
その親玉が何人もいる可能性を考えると、それなりに経験を経た今でもやや気分が億劫になってくる。
この先一体どうなるのかと、不測の事態が起きないように願いながら、四人は道中を進んでいった。
しばらく歩き続けているうちに、大我がぼそりとつぶやく。
「こんだけ長い道歩いてると、バーンズさん達の馬車がどれだけ楽だったかって思うな……」
「なんだ、このくらいでへばってんのか。体力ねえな人間は」
「いや、まだ歩けるけど……やっぱあの馬車が快適すぎて」
最初は驚いたが、改めて思い出として振り返るととにかく何でも揃っていたように思えるバーンズ特注の馬車。
過去の利器への思いを馳せている大我に、迅怜ははぁ……と溜め息をついた。
「おそらくまだ時間はかかる。それらしい臭いもないし大丈夫だろうが……油断して傷作るなよ」
「わかってますよそれくらいは」
道中の自然がだんだんと濃くなっていく。
そんな中でのやり取りに、ティアが少しだけ割り込んだ。
「迅怜さんって、エヴァンさんが言ってた通り結構優しい方なんですね」
「あ゛ぁ? あいつがどうしたって?」
エヴァンの名前が出た瞬間に、反射的に力の入った返し声が出てくる迅怜。
それに怖気づくこともなく、ティアはそのまま笑顔で純粋な感想を返した。
「アリシアとエヴァンさんと一緒にいた時に話してたんです。『迅怜は一見気性は荒いし喧嘩っ早いって雰囲気はすごいけど、実際は不器用だけど優しいやつなんだ』って」
一人の人物に対するはっきりとした褒め言葉。
だが、それを言う相手が相手なだけに、迅怜はビキビキと衝動的な怒りを剥き出しにしていた。
「あんの野郎……褒め言葉としては受け取るが見透かされてるみてえで気に入らねえな…………」
「受け取るんだ……」
常に強いライバル意識を燃やしている相手には、とにかくなんでもかんでも対抗心が湧き出てくる。
ティアが口にしたエヴァンの言葉は褒め言葉で間違いないし、それ自体は受け止めるが、それはそれとしてなんだか気に入らない。
敵ではないし協力もするが対抗者としての反抗心を燃やしている迅怜は、彼の知らないところでさらなる炎を燃やしていた。
「……なんか、ラントみたいだな」
「あ、俺も思った」
迅怜の対抗心を沸騰させる姿に、何かデジャヴを覚えた二人。
その頃、アレクシスとの修行の日だったラントは、大木の打ち込みの途中で一瞬気が反れ、拳を外しすっ転びかけていた。
「どうした、集中が切れてるぞ!」
「すみません! …………なんだ一体?」
「絶対一泡吹かせてやるからな…………ああ、この辺りからだな、森の中に入るのは」
私情に燃えていた迅怜だったが、おおまかな中間地点へとたどり着いた瞬間に即座に気持ちを切り替える。
彼が目線を送る先は、整えられた道の無いまさしく鬱蒼とした森という言葉が似合う光景だった。
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