13章 拾われた死
第177話
アルフヘイムに冷たい風が吹き抜けるある日。
大我とエルフィ、そしてティアは、共にクエストをこなす為に紹介所の方へと向かっていた。
今回それをしようと進言したのは、大我ではなくティア側からである。
「珍しいな、ティアからクエスト行こうなんて」
「私だってちゃんと強くなりたいから、パパとママの手伝いをしながらそれなりに練習してきたんですよ? 今日はその腕試しというか、実力を試したいなって」
ティアは以前から、周りに比べて足手まといになりそうな実力の至らなさに申し訳無さを抱いていた。
そもそもが戦いに投じるような人物というわけでもないが、それでも、何かしらの手伝いやB.O.A.H.E.S.の騒動のようにいつ矛先が向くかわからない事態も体験した。
B.O.A.H.E.S.の時は大我の看病という事情もあって、エルフィが守ってくれた為に大事は免れた。残った分も、当時の実力で充分払える程だった。
だが次にそんな運がいいことが起こるかわからない。そんな時に足手まといになってしまうのは不甲斐ない。
何より、周りの友達が強い者ばかりなのに自分だけ至らないのはなんだか恥ずかしい気もする。
そんな予測できない未来と、あまり言いたくないというちょっとしたプライドも重なり、こっそりと魔法の練習を重ねていた。
「風魔法には多少の自信はあるつもりだったけど、ここしばらくの出来事とか見てると、それじゃあ危ないかなーって。なんだかんだでみんなに助けてもらってばかりだし……自分の身くらいは自分で守らないとね!」
その元気な声には、確かな強い意志を感じた。
力が欲しいという気持ちは、大我にもよくわかる。その過程はいささか正しいとも言い難いが、自分で戦えるだけの能力は身につけた。
それもまだ、エルフィと共にあるからこそという部分も無くはない。が、フロルドゥスとの戦いは、死の一歩前まで到達した無茶ではあったが自信に繋がる部分は大いにあった。
実戦を通しての実力の肉付け。大我はそれに快く了承することにした。
「なるほどな。そういうことなら協力しないわけにはいかないよな」
「ありがと大我」
「俺もその気持ち、それなりにわかるからさ」
出自と人生、日常で培い備わっている実力こそ違うが、共に元は一般人であることは変わらない。
強くなりたいという気持ちによって、逸脱へ踏み出す勇気。それを否定する理由は無かった。
そんな二人をエルフィが優しく見守りながら、三人はそのまま真っ直ぐ紹介所へと向かっていった。
結局空気と雰囲気、言い出しにくさも重なり、右手の違和感を話すこともできないままに。
* * *
紹介所へとやってきた三人は、そこでいつものように働いていたルシールとの談笑を始めていた。
「そうですね。以前みたいに、穢れがどうっていうような依頼は見当たらないですね……。でも、その……数自体は変わってないというか、中身が変わったというか……」
「なるほど……やっぱ、あいつらの影響の残り香ってとこなのか」
未だ残るフロルドゥスとB.O.A.H.E.S.の残照。むしろそれが表出したというべきか。
そんな世間話的な話題を軽くしていると、突如店内が少々ざわつき始めた。
「あの人が……初めて見た」
「噂通り強そう…………何を受けるんだろうな」
大我達もその雰囲気を感じ、特にそれが聞こえてくる方へと視線を向けた。
そこにいたのは、一人の風格漂わせる人狼だった。
「あれ、迅怜さん?」
「迅怜…………あの人がなのか」
「そういえば大我は、話に聞いただけで実物を見たことなかったんでしたね」
「エヴァンさんに連れられた時くらいだな」
エヴァンのかつての仲間の状態を確かめるための行脚にて、一度向かった迅怜の棲家。
本人の状態への配慮もあって、それは叶わなかった。が、フロルドゥスの枷も外れて全快し、ようやく自由に外へと足を踏み出すできた。
その影響が、こうして現れたのであった。
長い月日によって、大我と同様に話にだけは聞いていても姿を見たこともない人が増えていった。
その姿を知っている者がまず気づき、次々と伝染。それがどよめきとなって形に現れた。
「なんだ一体、何騒いでんだみんな」
迅怜本人は、その不思議な歓迎に似たざわつきに少しだけ戸惑った。
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