番外編
番外編
大我が未だ二階の自室ベッドの中で安静にしていたある日の正午頃。一階のテーブルではある打ち合わせが繰り広げられていた。
「やっぱりさ、ここはブラックバードの丸焼きで」
「それは却下!」
「そもそもそれがいるとこ、結構離れてんだろうが……」
「ちぇ…………いいと思ったんだけどなあ」
「…………それじゃあ、俺の案の通り、みんなでケーキを作ってあげるってことでいいか? 大我への誕生日プレゼント」
エルフィを中心に、ティア、アリシア、ラントの四人が一同に介した話し合い。
それは、大我の誕生日プレゼントについてだった。
大我が生きていた時代から何千年も経過した後も、その日数のカウントは続いている。
この日はちょうど、大我のプロフィールに記された誕生日であった。
そのことを前日の深夜に思い出したエルフィは、早朝から身近な者を集め、協力してもらうように頼み走った。
ティアは笑顔で喜んで了承。アリシアも任せろと自信満々にそれを承諾。
そしてラントは、なんであいつの誕生日祝いなんかと言いながらも、アリシアに半ば強引に連れられ、渋々協力することとなった。
その後、フローレンス邸の一階にて集まり、何をあげるか、何をするかで話し合い、動物の丸焼きや剣セットなどの物騒な案も飛び交いつつもようやくその内容がまとめられた。
「冷やす時間もあるし、今から作っちまうか」
「そうしましょうか。ちょっと材料見てきますね」
一度ティアが席を離れ、自宅に残っているケーキ作りに使える材料を確認しに向かう。
残された三人のうちエルフィとアリシアは、ちょっとだけバツが悪そうに目を反らしているラントの方をによによと見つめていた。
「しっかし、まさかついてきてくれるとは思わなかったな」
「こいつが強引に連れてきたんだろうが……」
「んー? あたしは別に断れば素直に受け入れたけど?」
「て、てめえ…………」
なんだかんだでわりとちゃんと協力してくれた事実を突かれ、二人からさらに大きく目を反らすラント。
二人で揃ってラントわいじっていると、ティアが材料確認から戻ってきた。
「一通りは揃ってましたけど、牛乳とバターを切らしてましたね」
「んじゃああたしが買ってくるわ。材料はそれだけでいい?」
「うん。念の為レッドベリーもお願いね」
足りないものを確認し、自ら買い物を買って出たアリシア。
善は急げと早速立ち上がり、速やかに外へと出かけていった。
「そんじゃ、こっちは軽く準備でもしとこうか」
メンバーの入れ替わった居残り組の三人も立ち上がり、キッチンへと向かい、いつでも調理を始められるようにと材料や調理器具の整理を始めた。
「よしっ! 気合を入れて作ってあげなきゃね!」
「なんかいつもよりえらいやる気あるじゃねえか。なんかあるのか?」
「そう? だって、大我の誕生日なんだから。初めてのお祝いなら気持ちをいっぱい込めたほうがいいでしょ?」
「………………まあ確かに」
長い付き合いの中で、ティアは身近な人への祝福は心を込めてやる人物だということを理解しているラント。
だが今回は、初めてのお祝いということを加味してもなんだか気合が入っているように感じる。
ラントはまあいいかととりあえず流し、その心意気に協力することにした。
* * *
その日の夜。回復の兆しは見せながらも右腕以外の全身をほぼ固定されたままの大我は、誰もいない部屋で一人、軽く首を傾けたりしながら暇をつぶしていた。
「ああ……早く動きてえ……」
夕飯こそ済ませられたが、なんだか今日はエルフィとティアの態度がよそよそしい感じがあった。
動けないしこの日あまり話してもいない分、自分が原因とは考えにくい。
何かあったんだろうかとも思いながら時間が過ぎるのを感じていると、ドアの開く音が聞こえてきた。
「入るぞ大我」
開けてから尋ねるエルフィの声。その後から、ティアだけではない複数人の足音が耳に入る。
本当に何かあったのかと内心にちょっとした憶測を考えていたが、その思考はすぐに無くなった。
「…………ケーキ……?」
部屋に足を踏み入れたのは、いつものようにふよふよと飛んできたエルフィと、毎日の看病と同様に入ってきたティア。アリシアとちょっと目をそらしているラントだった。
そして、ティアの手元には1ホールのクリームたっぷりショートケーキが皿の上に乗せられていた。
「大我! 誕生日おめでとう!!」
「は? え?」
一体なんのことを言ってるんだとわかりやすく戸惑いの色を見せる大我。
それを予測していたように、エルフィが説明を押し込んでいく。
「ずっと色々あったから日にちのことも忘れてたと思うけど、今日はお前の誕生日だぞ大我! 俺はちゃんと知ってるからな!」
「それで、みんなにお祝いしようって決めたんです」
「俺は決めてねえぞ」
「これは、みんなで話し合って決めた誕生日プレゼントです」
「おい、せめてリアクション返してくれ」
大我の予想の外からぶつけられたまさかのプレゼント。
復活してから今までずっとばたばたとしており、そういえば細かな日にちを気にかけることも無かった。
アリアと繋がっているエルフィが言うならば、おそらく本当に今日が自分の誕生日なのだろうと、大我は皆のその祝福に思わず胸を打たれた。
「さ、さすがにこれは予想できなかったな……誕生日とか、日にちは覚えてても今日がそうだって全く思ってなかったし」
ティア達四人で作ったケーキは、不揃いなクリームやレッドベリーの配置と、飾り付けに手作り感満載な身姿だった。
だがそれが、みんなが一から作ってくれたのだと強い気持ちが感じられた。
「ありがとうみんな…………けど、今の状態だと、まともに食えない……」
「あっ」
アイデアと製作の指揮を取ったエルフィ本人が間抜けな声を出す。
定番だとは思っていたが、その先の事を考えていなかった。切り分ければ食べやすい以前に、そもそも動かせる右手の位置も壁際なため、食べにくいことこの上ない。
やべっ……と思っていた直後、ティアが一緒に持ってきたフォークで一部分を切り分け、それを刺して口へと持って行った。
「これで大丈夫ですよね。はい、口開けてください」
その光景に手を口に当ててばたばたとバネを羽ばたかせるエルフィ。
後ろの二人は、腰に手を当てたり腕を組んだりしながら見守っていた。
ティアの誘導に流されるままに、一口運んでもらう大我。スポンジの風味と甘味、生クリームの濃さとレッドベリーの酸味が調和し、舌に伝う。
「うまい……!」
「よかった! 見た目だけで失敗してたらどうしようかと……ね、アリシア」
「どういう意味だよ……」
「さて、主役に一番乗りで食ってもらったことだし、あとはみんなで一緒に食うか! こんな量、大我一人じゃ食えねえしな」
「ああ、さっき飯食ったばかりなのにまた食わされるかと思った……」
「さすがにんな真似はしねえっての。あとからルシールやエヴァンも来るらしいから、もっと賑やかになるぞ」
最初の一口を皮切りに、一気に雰囲気も賑やかになり始めた大我の部屋。
もし動けたのなら、この騒がしさの一員になれたんだろうかと思いながら、みんなの楽しげな様子を見守る。
新世界で目覚めての、気がつけばやってきた初めての誕生日。
それを知っていてくれた者、祝ってくれた友。その存在に心から感謝しながら、大我は右手をぎゅっと握った。
「ティア、もう一口だけもらっても」
「もちろんですよ。そもそも大我のお祝いに作ったんですからね」
二口目のケーキは、一口目よりも少し甘い気がした。
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