11章 遠き力を手に
第139話
ラクシヴとの出会い、フローレンス家の住屋2階が破壊されてから数週間。
職人ドワーフ達の気合の入った作業の甲斐もあって、想定よりもとても早い期間で完全修復を達成した。
それどころか、地下室や若干の増築、家具の製作と、超が付くほどに手厚いサービスを提供され、まさしく焼け太りとも言える、破壊前よりも非常に良い状態となっていた。
その作業員である一人のドワーフが言うには、
「あんな大金積まれたからどんだけの作業になるかと思ったら、まさかの壁と屋根の修復ぐらいだとは思わなかったんだよ。ならもっとサービスしなきゃケチくせえだろう」
とのことである。
とにかく料金を持って依頼しなきゃと、大我が数えずとにかく持ち込んだヒュームは果たしてどれ程の金額だったのか。
そんな経緯もあって、その家の主であるエリックとリアナは、思わぬ形で舞い込んできた自宅のリニューアルにとても上機嫌になっていた。
「ふんふふーん、ねえあなた、今日は何時頃帰ってくるの?」
「今日は早めに帰ろうと思うんだ。休んでもらうとはいえ、リアナを一人にさせたくないからね」
「もうあなたったらー!」
まるで新居に引っ越した新婚カップルのようなはしゃぎっぷりに、ティアはおろか大我やエルフィまでさすがにちょっと気まずくなってくる。
だが、ドワーフ達のおかげで生活環境が良化し、さらに過ごしやすくなったことは間違いなかった。
ティアの部屋も大我の部屋も、現在の内装に合わせて窓や屋根の高さを調整され、過ごした月日に比例した新鮮さも感じられた
この新しい空気を体感しようと、家にいる時間を長くしたくなる気持ちも理解できる。
ティアもしばしの間落ち込んでいたが、なんとか落ち着きを取り戻したようだ。
予想外の出費とはいえ、突然の大金に使い道も全く思いつかなかった上に、未だ手元には超高額のヒュームが残されていることから、こういうの悪くないなと思いながら、大我は朝食のちょっと豪華な濃いめのコーンスープと焼きたての香ばしいパンを楽しく美味しく味わった。
* * *
朝食後、大我とエルフィは新たなクエストを受けようと紹介所まで向かっていた。
完全回復から時間が経ち、それなりに様々な依頼をこなして身体の調子は取戻しつつあったが、それでもかつての本調子に届いていないことは間違いない。
鍛錬といまだ未熟な戦いへの神経を研ぎ澄ませるため、いつどのような戦いが訪れてもいいように、そして人助けの為にこの日もまた新たな仕事を受け持とうとしていた。
「そういやあの人どうしてるんだろうな」
「ラクシヴのことか? アリア様のことだし、ちゃんとしてくれてるだろうよ」
「本当か? アリアだぞ?」
「………………まあ大丈夫だろ」
この世界を何千年と管理し、多少の闘争は起こりつつも世界そのものの平穏は保ち続けてきたアリアには、その功績と能力に関しての全幅の信頼は担保できる。
が、一対一のような直接の対面となるとどうにもズレている様子があることは否定できない。エルフィですら薄々感じている。
だが、あれだけ言ったのだからラクシヴに関しては下手な真似はしないだろうと、7割程の信用で考えていたその時、一人の男が二人の元へと近づいてきた。
男が背負っている革袋には大量の封筒がきちんと潰れないように詰まっている。どうやら飛脚か何かの類いらしい。
「あんた達が大我さんとエルフィさんだな?」
「ああそうだけど、俺たちに何か?」
「ルシールからちょっと手紙を預かっててね、あんた達に渡してほしいって。いやあちょううど鉢合わせになって助かったよ」
そう言うと、男はルシールからの物だと言う手紙を渡された。
そしてそのまま、男はまた別の宛先へ向かう為にすぐに去っていった。
「ルシールから? 一体なんだろ」
彼女から手紙を送られるような心当たりは無く、用事があるとは思えない。
としたら、ルシールが直接大我達に何かしらの依頼を向けたのだろうかと、封筒を開けるまでの間にその内容を予測しようとする二人。
そして、大我は手紙をうっかり破らないように優しく取り出した。
「…………え、日本語?」
その紙面に書かれていたのは、アルフヘイムで使われている言語ではなく、大我がとても慣れ親しんだ日本語だった。
それを目撃した二人は、内容を読む以前の段階でこの手紙の主が誰なのかをはっきりと察した。
「……アリアか」
「アリア様だな」
神憑という能力をまるで使い走りのように使っている様を思い浮かべで小さく呆れの笑いを噴き出す大我。
それはそれとして、ある意味直接の通達ということは何かしらの重要性があることは間違いないと、内容を読み進めた。
「大我さんのこれからの為に必要な準備が整いました。この手紙を受け取ったら、できれば急いで私の所へ来てください……?」
その中身は、とにかくざっくりとした大雑把な物だった。用はとにかく世界樹に来いというわかりやすいことこの上ないものである。
しかし二人には、それに思い当たることが何もないし頼んだ覚えもない。二人の図状にハテナが浮かぶ。
「エルフィ、何か頼んだか?」
「いや何も。としたら……なにかいいものでもくれるんじゃないか?」
「あいつが直接くれるんなら、レーザーガンとかそういうのが欲しいな」
「んなもん無理に決まってんだろ。とりあえず行こうぜ」
どこか女神の思い通りに動かされているような気もしなくはないが、とにかくこの日の行くべき場所が決まった二人。
クエストを受けるのは後回しにして、二人は今までよりも比較的短めの空白を挟んだ数週間ぶりの世界樹を目指した。
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