助太刀

 見覚えのあるそろいの羽織はおりを着た集団が、一人の男を取り囲んで突き殺すのが見えた。

 なるほど、確かに見栄みばえはよくない。


 そんなことを思いつつながめていたら、後ろから、何故かうんざりとした声が聞こえた。


「なんだってこんなところに居やがる」

「えー天下の大通りに俺がいちゃいけない理由を教えてくださいー」

「語尾をのばすな気色悪い!」


 あまりに予想通りのしかめっ面に噴き出すと、睨まれた。

 任務中を示す隊服姿は変に堂に入りすぎて、おまけにぴりぴりとした空気のせいか、周りの人たちは視線を向けようともしない。逆にそれが、異常だった。

 まあそれでなくても、おっかない集団の出現と血に、人々は建物の陰に身を潜めるようにうかがっている。

 それでも、人の姿がなくならないところが物見高い。


「そっちこそ、どうしてここに? 見回りは違う通りでは?」

「あそこの奴が逃げて、追いかけてきた」

「それはそれは。まだまだきたえる余地があるみたいだね」

「まあな」


 そう言いながらも、どうにかはなっている。集団戦法は、やはり有効なのだろう。命がけなのだから、人数で押せるなら当然そうすべきなのだ。

 それでも「武士」は、名誉だの見栄だのを気にしがちで困るのだけど。


「この調子なら、俺の出る幕はなさそう」

「元からその気もなかっただろう」

「いやいやまさか。目の前で仲間が困ってたら助太刀すけだちの一本や二本」

「ふん、どうだか」


 鼻で笑う。けわしい顔を崩さないのは、任務中だからだろう。


「信用ないなあ」

「そうでもないさ。ただお前は、助太刀じゃあ済まないだろ。――おい、行くぞ!」


 含みのある言葉を残して、ひらりと翻した隊服の色を残して、去って行ってしまう。

 まったく、あの人は気が抜けない。


「勝手に、一人で納得して行っちゃわないでほしいなあ」


 呟きながら、もしあのとき囲みが崩れて男が逃げようとしたらどうしただろう、と考える。いや、考えるまでもない。

 彼らがどうするかを見極めることもせず、一太刀で切り捨てただろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る