負うべきモノ
「おい。休みの日にまで根詰めて練習することないんじゃねえのか?」
素振りの手を止めて、俺は振り返る。
「いえ、あの。私は、まだまだ未熟で。先生方にも、ご迷惑ばかりを」
「弱いなんて気にしてるのか? お前、そこそこ使えるだろうが。うちで一番命知らずのところだろう、お前のところは」
「そ、そんなこと」
「下手に否定するな。お前より弱い奴なんて山といるんだから、そいつらの立場がなくなるだろう」
ふっと
俺は、不意を突かれて、思わずぼうっと見入ってしまっていた。
そして、
「だって私は、隊長の足元にも及びませんから」
途端に、呆れるような、納得するような、疲れたような、溜息がこぼれた。
「…あいつを目指すのか」
「お、おこがましいことだとはわかっています。だけど、あのくらいに強くなれれば、少しは」
「強くなるのはいいことだ。特に、ここではな。だけどお前、あいつは見習わない方がいい。他の奴にしとけ」
「何故――ですか」
言い知れぬ不安を感じて、俺は、知らずに着物のあわせを握り締めていた。
「あいつが何故強いのか、わかるか」
切り出された言葉に、え、と、言葉に詰まる。それがわかっていれば、という無言の非難も、
苦いかおをした。
「剣の腕だ天賦の才だってものも、確かにあるだろう。それだけの鍛錬だってしてる。あいつが、どんなにがきの頃からやってたか。だけどな。それだけだったら、他にももっと上回る奴はいるだろうよ」
黙っていると、空気に乗って子供の騒ぐ声が聞こえた。隊長が、また一緒になって遊んでいるだろうかと、ふと思った。
その隊長の、何を
「あいつは、
「でも、私たちは」
「ああ、
「…私たちは」
「ああ。それなりに熱気はあるが、戦場よりは日常の方が近いな。だけど、それは相手も同じことだ。口ではどれだけのことを言ったところで、斬った張ったなんてものは、遠いんだよ。だから、そんなところでは戦場の何分の一もの強さしか出せない。だけどあいつは、ごく冷静に、人を斬ってのけるんだ。重みも何もかも、全部わかった上でな」
何も言えず、ただ見つめると、遠い眼をして
「この前あいつ、町を歩いてるときにな。あの人、似合わない
あの人らしいと、思って同時に
自分を憎むはずの人たち。断ち切った、その上にいる人たち。そんなものを、
わかるだろうと、同意を求めるような、気の毒がるような視線が
「あの馬鹿は、そんなもんを全部背負い込んで、それなのに
揃って押し黙ってしまい、いよいよ、子供の声が大きく聞こえた。
いや、実際にそれは、近付いていた。
「あれ、二人で何やってるの、暇なら一緒に遊ばない?」
「馬鹿野郎、俺は仕事の途中だ」
「おれ見て逃げるってのは、いくらなんでもあんまりじゃない?」
ねえと、一緒に騒いでいた子供に同意を求める。近所で見かけたことのある子供は、いきなり振られて、戸惑っているようだった。
そうして不意に、俺の持っている木刀に気付いて、おやと、眉を上げる。
「熱心だね、今日は非番なのに。良かったら、俺付き合おうか? 弱いけど」
「そうだな、お前の練習試合はまったく参考にならん。止めとけ止めとけ」
「ひっどい言い方。いいよもう、真剣でしか立ち会わないことにするから。行こう」
子供のように
そうして俺たちは、そんな
その背には、見えないけれど大きなものが背負われているのだ。
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