1-7
紅茶を三杯。フレンチトーストとパウンドケーキを食べ終えた頃。
彼が来た。
私はすぐに勘定を払って、彼を追った。
定期を改札に入れて、ホームに着いた時、まだ電車は来てなかった。
彼はやっぱりホームの一番前にいた。
私は気付かれないよう、近づき、少し後ろで彼の背中を見ていた。
普段と違うアングル。
思ったより大きな背中に私はドキドキしてた。
初めて会った時より、背はかなり伸びている。
卒業証書の入った筒が通学用の鞄から少し出ていた。
鞄の底は白くこすれた痕があって、それがまるで私達の歴史みたいに見えた。
電車が来て、彼と私は開いたドアに吸い込まれていく。
まだ昼過ぎ。電車はいつもより空いていた。
彼の前の席に座ると、心臓がどくんとはねた。
初めて向かい合う。
彼の顔は正面に見えるし、彼は私を正面に見る。
座って早々に文庫本を取り出す彼は、もちろん私なんて見てない。
それでも緊張して、私は手鏡で自分の顔を見た。
お化粧、変じゃないかな。
服は大学の時のを着てきた。これで少しは若く見えるはず。
メイクも一時間かけて、勉強したナチュラルメイクをやってきた。
よし、大丈夫。
自信を持て、私。
相手は七つも歳下だぞ。
こっちは社会人三年目。もう立派な大人だ。
なのに・・・・・・、なんでこんなに恥ずかしいんだろう。
顔が赤くなるのが分かった。
それでも目線は自然に彼へといってしまう。
彼は私の気持ちなんて知らず、文庫本に夢中だ。
ああ、くそ。格好いいな。格好よくなったなあ。
彼は大人になっていき、私はどんどん歳を取る。
女子高生の肌の張りを見て、どきっとして自分と比べてしまったりする。
同じ時間が過ぎてるはずなのに、どうして十代と二十代じゃこんなに違うんだろう。
きっと彼も若い子の方がいいんだ。
そりゃあ、私だってまだ若いつもりだけど、彼が大学卒業する頃には、29!
大学院なら30越え!
だめだ。待てない。
待ってたらおばちゃんになる。
そもそも大学もまた同じ電車になんて乗るわけない。
よし、声をかけろ。
なんでもいいから声をかけるんだ私。
ああ、でもこれってナンパじゃん。
あたし男子高校生をナンパするんだ。
いや、気にするな。もう彼は卒業したんだ。
いけ!
心の声がそう叫び、私が立ち上がろうと足に力を入れた時だった。
「あれ? 吉崎君?」
先程まで私達の左側に座っていた女子高生がこちらに声を掛けた。
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