1-8

 白と紺の可愛らしいセーラー服を着た美人の彼女は、多分私学の子なんだろう。

 私の名字は今のところ吉崎じゃない。

 なら、その名前の意味は一つしかない。

 彼は女の子の方を向いた。

「あ、古谷か。久しぶり」

 私が初めて彼の声を聞いた瞬間は、他の女の子の名前を呼んだ時だった。

 低めの落ち着いた声が、私の鼓膜をしっかりと振るわした。

 どうやら、彼と彼女は中学の時の同級生らしい。

「そっちも卒業式?」

 古谷さんは綺麗な長い黒髪を揺らしていた。

「うん。気がついたら卒業してたって感じだったよ」

 彼こと吉崎君はどこか楽しげに古谷さんと話していた。

 それを聞いてた私は、一体どんな顔をしてたんだろう。

 彼の声をこんなに聞けて嬉しいような、女の子とこんなに親しげに話すことに驚いたのと、そして初めて笑う彼にびっくりするほど嫉妬していた。

「サトコはどうだった? 泣いてたでしょ?」

「さあ、あんまり興味ないから。部活のみんなに誘われたけど、俺、忙しいからって断ったんだ」

「まだバイトしてるの?」

「うん。うちあんまり余裕ないからさ」

「えらいなあ」

「べつに普通だよ。そのおかげで本も買えてるし」

 古谷さんとの会話で知れるたくさんの新事実。

 部活してたんだ。バイトも。じゃあ文化部? 部活が忙しかったらバイトできないよね。家の為にバイトとか、だから大人っぽく見えるのかな。

 それにしても古谷さんが詳しいのはなんで?

 なんでそんなに楽しそうに話すの?

 そう思ってから、私は私を嫌いになった。

 本当に、馬鹿みたい。

 それからしばらく、彼と彼女は楽しそうに話していた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る