1-5
彼は推理小説が好きみたい。
いつもブックカバーをつけないからタイトルが分かった。
最初はタイトルや作者名が分かっても、それがどんな本なのか全然分からなかった。
だけど本屋で探すとすぐに分かった。
人が死ぬ小説はあんまり好きじゃなかった。
そもそも小説なんて、話題の恋愛小説くらいしか読んだことがない。
だから最初は抵抗があった。
でも読んでみると面白くて、すぐに夢中になった。
なにより、彼と同じ世界を共有している気がして嬉しかった。
朝、彼がどのページを読んでいるのか気になる。
開いた本の左右の厚みでなんとなくあの辺かなって想像する。
それならそろそろ。
ほら、驚いた。
どこか満足そうに騙される彼を見て、私は喜んだ。
私もびっくりしたんだよ。
そう言いたかった。
でも、言えない。
もう言えなかった。
これじゃストーカーみたいだし。
もし私が本を読んでて、
『同じ本を本屋で買って読みました。面白かったです』
なんてことを自分より七つも上のおじさんに言われたらどう思う?
正直気持ち悪い。
きっと明日からは同じ電車に乗りたくなくなる。
でも私は同じ事をしてた。
しかも高校生の男の子に。
こんなこと、友達に知られたら笑われる。最悪ひかれる。
だから言えなかった。
本当は話したかった。あの小説家の作品がおもしろいよねって。
嘘をついてもいい。
偶然同じ本を読んでて、それがきっかけで話が弾む。
なんかロマンチックだ。
でも多分、私が話しかけないのは、そんな手に入るか分からない未来よりも、毎朝のこの時間が大事だと思ってるから。
彼を見てる間だけ、私は癒やされる。
一人じゃないと思える。
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