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私の入った会社はそこそこの大手だった。
普通の人は名前なんて知らないけど、業界で知らない人はいない。
そんな会社。
繊維関連会社の事務職だ。
大変と言えば大変。
でも私より働いている人はたくさんいて、つらいと言いたくても言えなかった。
たまに同じ部署の女子会で慰め合うくらい。
つらいよねー。大変だよねー。上の人は何にも分かってないよねー。
そうだそうだと言いながら、飲むお酒はどうしておいしいんだろう。
自分だけじゃないんだとほっとするからかな。
でも愚痴を言い合ってた同期は転職したり、先輩は結婚して辞めちゃったり。
一人になったわけじゃない。後輩はできるし、優しい男の人もいる。
だけどたまに不安になる。
このまま一人になるのはいやだなって。
大学の友達と会う時間はどんどん少なくなって、旅行に行こうとか誘われても予定が合わなかったり。
そんな調子で孤独感だけが増していった。
一人暮らしも最初のうちは開放感を感じられてよかったけど、今はどこか寂しい。
でも実家に帰ると寂しくなったのって聞かれるから、心配させちゃだめだなと思って帰れない。
彼氏は大学二年の時に別れて以来いなかった。
私が馬鹿なんだけど、そいつはデリカシーがなくて、自分勝手で、いつも人のせいにするくせに何もできない人だった。
でもたまに優しくて、安いプレゼントとか買ってくれるから、なかなか別れられなかった。
でもあいつにお金貸してくれって言われた時、ふんぎりがついた。
ああ、やっぱりこの人は私のことをそう見てたんだって。
それから男ってああいうもの、みたいな感じが染みついて、彼氏が欲しいとか思わなくなった。
だけど会社員になればもっと大人な人がたくさんいるはず。
優しくて、包容力があって、お金もあって、愚痴も言わない人。
馬鹿みたいだけど、新入社員の時、私は本気でそう思っていた。
でも大人になると、思った以上に大人な人は少ないことに気付いた。
自分が抱いてたのは幻想だったんだ。
特に男同士でいる時なんて学生みたいにはしゃいでる。
それでも責任感のある格好いい大人はいる。
けどそういう人はもう結婚してたり、独身でも私と釣り合わなかったり。
つまり、私は現実を突き付けられたんだ。
他人の、そして自分の現実を。
なのに、幻想の面影を未だ彼へ抱き続けている。
ほんと笑える。
馬鹿みたい。
そう思いながら、今日も私は電車に乗る。
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