1-3

 その日から、私はほとんど毎日、彼と会った。

 会ったと言っても何も話さない。

 目さえ合わさない。

 いつも私はスマホを触るフリをして、彼を見る。

 私より七歳も年下の彼は、ずっと文庫本を読んでいた。

 歳が分かったのも最近のことだ。

 学ラン服で三年も通っていたら、いくら数学が苦手な私でも計算できる。

 彼は静かで落ち着いた、それでいてどこか熱い眼差しを本に送っている。

 それが真剣で、思わずどきりとしてしまう。

 たまに目が少し開く。

 あ、なにか驚いたんだ。

 そんな発見があると、なんだか私まで嬉しくなってしまった。

 そこまで格好良いわけじゃない。

 昔はまったアイドルに比べたら全然だ。

 でも不思議な魅力があった。

 儚げな表情を浮かべたり、悲しそうに目を細めたりすると、ついついこちらの心まで動かされてしまう。

 いつの日か、私の日常の中に、彼を見るという習慣ができていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る