【組織解説】腸の腐った恐竜たち(旧家・財閥)
【第二次世界大戦後、GHQの命令により日本の財閥は解体された……ということになっている。日本を代表する企業グループに所属する者たちなら、日本には財閥はない、と口をそろえて言うし、ある意味それは間違いじゃない。ただしそれは飽くまで『ある意味』だ、面倒くさいんで結論から先に言うが、古い財閥システムは生きている。ただ、昔ほどあからさまではなくなったってだけだ。
もっとも、本当の意味で現在この国を動かしているのは、巨大すぎてGHQでさえ手が出せなかったと言われる官僚システムなんだけどな……。
――Mad-dog-handler】
【忘れてはいけない。のろまで頭の悪い、腸の腐った恐竜であろうと、その図体だけで君を圧し潰せる。
――Dentist】
〈
【全ての政治的動乱がそうであるように、あの年に半島で起きた動乱もまた、この国で生きる者たちにとっては迷惑以外の何物でもなかった。
音楽・映画・ゲーム等エンターテインメント産業の立役者であり在日コミュニティの名士としても知られるイ・スンシン会長が遠い祖国での二カ国衝突を知った際に、何を思ったのかは俺にはわからない。ただその後に彼が取った行動は実に素早かった。難民の受け入れに日本政府へのロビー活動、加えて新しく誕生した統一朝鮮政府への対話要求。その全てが上手く行ったとは言い難いが、果断であったことには違いない。彼の働きのおかげで在日コミュニティへの憎悪は予想されていたより軽微に留まった。……その分、彼自身が裏社会との繋がりを勘繰られるようになったわけだが。そして残念ながら、それはある程度までは事実だ。
――Hong Gil-dong】
【いいか、ああいう門地の高い家で銀の匙を咥えて生まれてきたお方はな、どこそこの誰それの喉首を掻っ切りゃ幾らやる、なんて下品な取引はなさらんのよ。食後のお茶を楽しみながら、彼の存在は誰にとっても気詰まりになりましたね、と言えばそれで充分なのさ。羽虫を叩き潰すのはそれにふさわしい連中がいるってこった。
――Mad-dog-handler】
【忘れもしない。控えめに言ってもひどい年だった。あたしの2人目の夫は、南沙暴動に巻き込まれた友人を助けに行くと言って出て行ったまま帰ってこなかったんだ。
イ会長があらゆる手を尽くしたのは知っている。本当にあらゆる手を、海を越えて逃れてきたあたしたち同胞を永らえさせるために。感謝はしている。だけど、その方法の全てを肯定することは、あたしにもできない。
――Chosung-saja】
〈ラシード・ファミリー〉
【ああ知ってるぜ、金融とエネルギー売りに来たアラブのお大尽様たちだろ? あと未真名市の沖合に浮かんでるでかいクルーザーの持ち主な。
――Mad-dog-handler】
【中東の名門、それも王族に名を連ねるラシード家が何だって斜陽の国まで足をお運びになったのかはさっぱりわからない。一説には三男坊が大の日本贔屓で、特に日本文化に造詣が深い……深すぎるらしい……からだとも言うが、まさかそれだけで日本進出を決めたりはしないだろう。道楽で企業経営はできないからな。
――Dentist】
【ついでに言っておくが、あんたが晩酌にちびちびやってる日本酒だって、ラシード家がスポンサーやってる造酒メーカーに買収されたぞ。
――Hong Gil-dong】
【……………そうだったのか?
――Dentist】
〈高塔家〉
【高塔について語ろうとしたら、当主の高塔百合子について語ることは避けられない。
投資と不動産業を中心に戦後財を築き、一時は皇族にさえ影響力を持ったとも言われる前当主・高塔孝元が没した当時、誰もが高塔百合子は政界に進出するか、さもなきゃどこぞの御曹司に嫁入りするものと信じて疑わなかった(無理もない……何しろ若くて飛び切りの別嬪で、おまけに腐るほど金を持ってる)。
だが実際の彼女の行動はまるで違った。広大な屋敷を抵当に入れた上に、手広く展開しすぎた傘下企業の株式を高値のうちに売り払って徐々にダウンサイジングし、整理が済んだとたんに実質的な経営を全部年の離れた叔父にぶん投げちまった(かわいそうに、奴さん彼女が生きている限りは頭が上がらんだろう)。そしてまさに狙いすましたようなタイミングで半島動乱が発生、日本経済はその余波をもろにかぶった。家計の大半を傘下企業からの収益に頼っていた旧家の多くが破綻し、被害を最小限に抑えられたのは高塔を含めごくわずかだった。
以来、彼女は一所にとどまらず、高塔グループが経営するホテルを転々と寝泊りしている。まるで何かから息をひそめるようにして。
しかし本人を知っている奴なら皆言う……あの高塔百合子がこのままで終わるはずがない、ってな。
――Mad-dog-handler】
【君にしては熱の入った説明だな。
――Dentist】
【熱狂的なシンパはもちろん、糞味噌にこき下ろす奴だってそれだけは認めるはずだ。今は彼女の雌伏の時に過ぎない、彼女は必ず何かやるつもりだって。
――Mad-dog-handler】
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