15#カラスと遊ぶカモメ

 「このいっぱいの風船、どうしたの?俺らにも別けてよ!」


 そこには、あのハシボソガラスのカースケとカーキチがカモメのトフミの嘴にくわえている萎んだゴム風船を物欲しそうに見詰めていた。


 「あっ!あの時の!!」


 カモメのトフミは、あの小屋での風船で遊んだ楽しい出来事を思い出し、心が熱くなり、胸がまるであの小屋で息を吹き込んで遊んだ風船のように膨らんでいくのを感じた。


 「俺達とこの風船で遊ぼうぜ!!」


 「うん!浜辺でやろうぜ!」


 「ううん。ここで。」


 「えっ?ここで?!」


 カモメのトフミは、漁港の中に入るのが苦手だった。このゴミ捨て場に行ったのも、おっかなびっくりだった。


 何故なら、漁港ので取れたれの魚を頂戴しようとして、人間に追いかけられたトラウマがあったからだった。


 

 「ダイジョーブ!!だって今日は時化で、漁船は出てないし市場は休みだから、ここで思う分楽しめるぞ!」


  「そうなの?じゃあ、早速この風船を膨らまそうよ!!」


 「ほいきた!どっちが早く膨らまし割れるか競争だ!!」


 「風船バレーもしようよ!」


 「落としたら、罰ゲームとして、倉庫にぶら下がってる目玉風船を割っちゃうっていうのを・・・」


 「あははっ!いいねえ!」


 「じゃあ風船膨らまして、吹き口結んで、風船ヘディングやろうぜ!最初に、いっせーので、突く風船を膨らまそう!」


 「いっせーの!せっ!」


 


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!




 ぽーん!ぽーん!ぽーん!ぽーん!



 

 パァーン!


 


 ぽーん!ぽーん!ぽーん!ぽーん!



 

 パァーン!

 



 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!




 ぷしゅーーーーーーーーーーー!!!! 


 ぶおおおおおおおーーーーーー!!!


 しゅるしゅるしゅるしゅる・・・




 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 



 

 パァーン!パァーン!パァーン!



 日が陰って、夕闇が迫る漁港のシャッターの降りた市場。


 激しい波音に、風船がパンクする破裂音が混じっていたこの場所も、今では割れたゴム風船が散らかっていた。


 その割れた風船を拾い集めていた、カモメのトフミとカラスのカーキチとカースケは、風船の破片から香る潮とゴムの延びきった匂いが混じった匂いを嗅いで、今日の楽しさを思い出していた。


 「よし!割れた風船全部かな?」


 打ち捨ててあった、コンビニのビニール袋にたらふく詰めた割れた風船を脚で圧縮して、カースケは言った。


 「まだあった!」


 ・・・これは・・・!


 カーキチが拾った割れた風船の破片には、カモメのトフミには見覚えがあった。


 それは、あの風船の紐が絡んで死んだカモメの口から出てきた、風船の破片だった。


 「あっ!ちょっと!この風船の割れ粕を俺に貸して!」


 カモメのトフミは、カラスのカーキチからその割れた風船を譲り受けると、ぎゅっ!と翼で抱き締めた。




 ・・・風船で死んだカモメよ・・・俺達が仇を取ったからな・・・!安らかに眠れよ・・・




 「はいっ!カーキチさん!捨てていいよ!」


 「捨てないよ!持っていくもん!あの白鳥の女王様のとこ!

 あ、あの時、小屋で遊んだ風船を持っていった湖で、白鳥の女王様が、

 『あんたに会いたい』

 ってさあ!」


 「えっ?」


 「一緒に行かないかい?」


 カラスのカーキチとカースケは、カモメのトフミの翼の着けねをポンポンと叩いた。


 「あれ?この前、俺が行きたいって言ったとき、

 『カモメは海に飛ぶもので、森を飛ぶのは如何なものか?』

 って、言われなかったっけ?」


 「あれは、あのオオワシさんの持論だよ。

 あのハクチョウさんが、直々に逢いたいって言ってくれるんだから、この機会に行こうぜ!!」

 

 「行くのは山々なんだけど、もう外はうす暗いよお・・・!

 鳥目じゃ夜は・・・!

 それに森には、怖いクマやキツネや・・・!」


 カモメのトフミは震え声で言った。


 「いいや、今日じゃなくて、別の日!

 昼間に俺達に会ったときでいいや!」


 「うん!そうしよう!ありがとう!風船を処分までしてくれて・・・!」


 「お安い御用よ!だって、最近めっきり風船が少ないって女王様が拗ねているって!!」


 「まあ!」「ふふふふふ。」


 「じゃあね!森の動物と、飛んでる風船には気を付けて!」


 「飛んでる風船は捕まえて、白鳥の女王様にあげちゃうし、森の怖い動物もやっつけちゃうからダイジョーブ!!」


 「本当っすかぁ?じゃあね!」


 「ばいならー!」


 「ばいちゃーっ!」




 バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!




 別の日・・・



 

 「よお!トフミ君!」


 「トフミさん!待ってたぜ!」


 海辺の小屋で、カモメのトフミは浜辺のゴミ溜めで拾って持ってきた、潮で色が剥げた星形のマイラー風船を膨らませて、義足カモメのスターオと、風船バレーを楽しんでるとこに、ハシボソガラスのカースケとカーキチにまた再会した。


 「おお!例の『ハクチョウ女王の湖』に行くんかい!俺も脚がびっこでなきゃ、行きたかったなあ!

 気を付けてね!トフミさん!」


 「行ってきまーす!スターオさん!」


 「カモメのトフミよう!森越えたり、遥か上空に昇る長旅になるけど大丈夫かい?」


 付添いに来たオオワシのリックとマガモのマガークもやって来た。


 「ダイジョーブ!伊達に放浪カモメやってねーぜ!」


 カモメのトフミは、翼をメンテの為に羽づくろいをした。


 「トフミさん!準備はいい?じゃあ、行こう!」


 カモメのトフミは、深く深呼吸をして、ぷくぅ!と頬を膨らますと大きな翼を羽ばたかせて、オオワシを先頭にマガモやカラス達と一緒に飛び上がった。




 バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!


 バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!


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