13#風船に怒るカモメ
「みんなあーーーありがとうございましたぁ!
また漂流風船が見つかったら、もってきまーす!!」
小さな小屋のある海岸で繰り広げられた、『風船祭り』は、小屋の中の夥しいゴム風船が殆どパンクさせて、お開きとなった。
カモメ達やカラス達、カモやオオワシ、野次馬の鳥達まで風船を膨らませて、突いて萎ませて割って、小屋や海岸に散乱した、割れたゴム風船は、カモのマガークとオオワシのリックが全部残さずごみ袋に纏めて、彼らが雇われている、遠くの湖の風船好きな白鳥の女王様に全部届けるために持ち帰った。
カラスのカースケやカーキチも、暇だからと割れた風船輸送のアシストするのを見て、カモメのトフミは、
「俺も手伝う!!」
と、主張したが、
「有りがたいけど大丈夫だよ!それに、湖は山奥だから、本来海にいるカモメが、山奥で飛ぶのは、如何なものかいな?
山奥で着地して何かあったとき、怖いクマやキツネやイタチが出て怖いどぉー!
それでも行くなら、止めないけど!」
と、カモのマガークに言われてトフミは断念した。
海辺の小屋に集った『風船カモメ倶楽部』の面々。
オオセグロカモメのインディも、
ホイグリンカモメのフィーバも、
シロカモメのサンキュ!
セグロカモメのクオリアも、
ユリカモメのアディユも、
オオセグロカモメのガノサンも、
セグロカモメのスタディも、
ウミネコのプリテンダも、
それぞれの群れへ、
それぞれの生活へ、
戻っていった。
「また海辺に漂流ゴム風船を見つけたら、また小屋で逢おう!!」
と、言い残して。
そして、セグロカモメのトフミも。
放浪カモメのトフミは、悠々と海風を翼に受けて、ふうわりふうわりとあちこちの海岸や干潟を飛んでいた。
時折、あの小屋で行われた風船で遊ぶ一時を思い出しては、ニヤニヤしていた。
「相変わらず、海岸はプラスチックやらビニールやら何だか訳解らないやつで汚れてるなあ・・・」
カモメのトフミは、人間の文明に侵食されていくこの世界に憤慨するようになった。
サラサラした砂。
棲みきった海。
トフミは、人間の影響を受けてない綺麗な海岸を欲していた。
そのような海岸を見つけると、ゆっくり降り立ち、砂に戯れ、打ち寄せる波に乗って泳いで、感触を心行くまで楽しんだ。
ある日のことだった。
「な、なんだあれは・・・」
カモメのトフミは、流木に紐でぐるぐる巻きにされて死んでいるカモメを発見した。
「惨い!!なんてことを・・・!」
トフミは、一目散にそのカモメの死体を拾い上げ、安全な海岸へと持ち去った。
「お前はなんだい?」
トフミは、丈夫で太いな緑のカールしたビニール紐を取り外した。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるー・・・
嘴で引っ張って引っ張って、カモメの死体から紐を取り除こうとした。
「ええっ!」
カモメのトフミは絶句した。
・・・風・・・船・・・?!!
・・・しかもこんな大量に・・・
・・・風船の・・・束・・・
・・・飛んでいて、誤って絡んだんだな・・・
・・・取れなくて、取れなくて、もがいて苦しんで・・・
・・・パンクした風船・・・
・・・それは風船に抵抗した跡・・・
・・・もがいていた時に、嘴か鰭脚の爪で刺してパンクさせたんだろうな・・・
・・・しかし、力尽きて、空中で・・・事切れたのか・・・?
・・・そして、残った風船の浮力が無くなって・・・降りたところが・・・
・・・いや!流されたのか・・・?
・・・目が・・・目を剥いている・・・悔しそうだ・・・!
・・・風船の紐に束縛されて・・・!
・・・ちくしょう・・・!
・・・ちくしょう・・・!!
カモメのトフミは、カモメの亡骸に絡まった風船の紐を必死に引っ張って取り除こうとした。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるー・・・ぐっ!
・・・くそっ!複雑に絡み付いてる・・・!!
カモメのトフミは、嘴と脚の爪で何とか紐を手繰り、引っ張って、濾して・・・
ぷちっ!ぷちっ!ぷちっ!
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる・・・
ドタッ・・・
「よお、取れたぜ・・・お前を苦しめた風船をな・・・。」
カモメのトフミは突然何を思ったのか、カモメの亡骸の嘴に自らの嘴を押し付けて息を吹き込んだ。
マウストゥマウス。
ふぅーーーーーーっ!
ふぅーーーーーーっ!
ふぅーーーーーーっ!
ふぅーーーーーーっ!
すると、カモメの亡骸の嘴の中から大量の海水と腐臭が飛び出してきた。
・・・やっぱり死んじゃってるのか・・・?
カモメのトフミは、更に嘴と嘴でマウストゥマウスをした。
ふぅーーーーーーっ!
ふぅーーーーーーっ!
ふぅーーーーーーっ!
カモメの亡骸のお腹が、どんどん膨らんでいるのを見て、トフミはぎょっ!とした。
・・・こいつ、もっと息を吹き込めば、パンクしちゃうぞ・・・!
カモメのトフミは、嘴を離すと、
ぶおおおおおおおお!!!
という、カモメの亡骸から空気が抜ける音がしたと思うと、嘴から思いのよらない物が飛び出してきた。
「ぎゃあああ!!割れた風船の破片だぁー!!」
カモメのトフミの心に、とてつもない深い怒りがこみ上がってきた。
・・・こいつは、風船に殺されたんだ・・・!
・・・割れた風船を食べ物と思って誤飲による窒息・・・
・・・おまけに、大量の風船の束に絡まって、束縛され・・・
・・・ちくしょう・・・!
・・・俺達は風船に裏切られたんだ・・・!!!
・・・俺達はこうやって、風船に殺されるんだ・・・!!!
・・・ちくしょう・・・!!!
・・・人間のせいだ・・・!!!
・・・人間のエゴのせいだ・・・!!!
・・・人間は何故、風船を飛ばすんだ・・・!
・・・人間は何故、風船なんか発明したんだ・・・!!!
・・・ああやって、俺達鳥に嫌がらせしたいから、風船を飛ばすんだろ・・・!!!
・・・ちくしょう・・・!!!
・・・ちくしょう・・・!!!
カモメのトフミは、今まで漂流してきた風船をいっぱい膨らませて海岸に並べたり、海辺の家で『風船カモメ倶楽部』の面々と、風船で遊んでいたことが、逆に恥ずかしく、情けなく思い、そういった自分に憎しみさえ覚えた。
「ええええいっ!!!この世に風船があるから悪いんだ!!こんなもの!!!こんなもの!!!!こんなもの!!!!こんなもの!!! カモメのトフミは、風船への怒りを込めて鰭脚を、死んだカモメに絡まった風船を何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も踏みつけた。
「こんなもの!!!!こんなもの!!!!こんなもの!!!!こんなもの!!!!こんなもの!!!!こんなもの・・・ぎ、ぎゃっ!」
風船の紐が、トフミの脚に絡み付いた。
「な、何するんだてめえ!!俺まで殺す気か!!!ふざけるな!!!!」
頭がパニックになったカモメのトフミは、脚に絡まる風船の紐を脚ではらって必死に取ろうとした。
「ちくしょう!!ちくしょう!!」
ばっ!!
脚から、絡まった風船の紐が取れた。
「うっ・・・うっ・・・うっ・・・うっ・・・」
自分の羽根や羽毛まみれになった、カモメのトフミの目から、大粒の涙がひとつ、ひとつ、またひとつこぼれ落ちた。
「うっ・・・うっ・・・うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーー!!!!!!」
カモメのトフミは、カモメの亡骸を翼で抱き締めて、大声で泣き崩れた。
「うわああああああああああああああああーーーーーーーーー!!うわああああああああああああああああーーーーーーーーー!!」
カモメのトフミの激しい嗚咽は、打ち寄せる波の音より響き、海風に乗って、このカモメが昇天した天国のその遠くまで響き渡った。」
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