12#みんなで風船で遊ぶカモメ

 「あっ!カーキチとカースケ!」


 オオワシのリックとマガモのマガーク、そしてセグロカモメのトフミは同時に異口同音に言った。


 「えっ!知ってるの?!トフミさん!」


 「あんたらこそ!ワシさんにカモさん!」


 「まあまあ、スターオさん!新品の風船の束をくすねてきたぜ!」


 ハシボソガラスのカーキチとカースケは、えっちらおっちらと、義足カモメのスターオの目の前に、嘴にくわえた大きな袋を置いた。


 「これ・・・マイラー風船だね?ゴム風船は?」


 「すまん!これしか無かった!」


 「いいよん。マイラー風船は膨らませば、風船バレーや羽を休めるクッションにもなるし。

 あ、紐は忘れず外して捨てといてね。」


 「はぁーい!」


 ハシボソガラスのカーキチとカースケは、ゴソゴソと持ってきた膨らませていないマイラー風船をまさぐって、

 脚で風船を押さえて、嘴で引っ張り、

 ブチブチと、紐を取り除いた。


 「じゃあ、紐を捨てに行ってきまーす!」


 「捨ててきたら、戻ってきて!!一緒に風船で遊ぼうー!」


 「はぁーい!」「はぁーい!」




 バサバサッ・・・




 カースケとカーキチは、風船の紐の束を嘴にくわえて飛び去っていった。


 「ところでさあ。」


 義足カモメのスターオは、カモメのトフミに振り向いた。


 「なあに?スターオさん。」


 トフミは、スターオに顔を付きだした。


 「あのいたずらカラス・・・いや、カラス達と知り合いなの?」


 「うん。俺がリーダー争いで負傷してから、人間の野鳥病院に助けられたんだ。

 で、同じゲージに隣に同じく負傷して収用されてたのが、カースケさんなんだ。」


 カモメのトフミは、心機一転に何もかも置いてきたあの元々いた故郷の海岸を思い、小屋の外の空を見つめた。


 「カーキチさんも、事故を起こしたンだぜ。トフミさん。」


 「えっ?」トフミは義足カモメのスターオを振り向いた。


 「カーキチさんは、嘴で風船を割ろうとして誤って、嘴に風船の紐が絡まって飲まず食わずの日々が続いたとか。」


 「へえ。そんなことが・・・」


 「で、俺がその風船の紐を取ってやったんだ!ふふーん。」


 そこに、黄色い嘴にマイラー風船の吹き口をくわえたオオワシのリックがニヤニヤしてやって来た。


 「ところでさあ俺の嘴じゃ、この風船膨らまないんだけど。頬っぺた疲れたよ。」


 オオワシのリックは、鼻をフーフーと鳴らしてスターオに聴いた。


 「オオワシさん、ストロー貸してあげるよ。

 こうやって、吹き口にストローを刺してっと、はいっ!ストローから嘴で息を吹き込んでみて?」


 「ありがとう!スターオさん!」


 オオワシのリックは、思いっきり息を吸い込むと、ストローを大きな黄色い嘴にくわえて・・・


 ぶぶーーーーーーーっ!!


 と、息を思いっきり吹き込んで膨らませた。




 ぶぶーーーーーーーっ!!


 ぶおおおおーーーーーっ!!




 「あっ!ストップ!パンクしちゃう!」


 スターオは耳穴を翼で塞いで声をかけた。


 「え?マイラー風船って伸びないの?」


 オオワシのリックは、頬っぺたを膨らませて、義足カモメのスターオを振り向いた。


 「じゃあ、ストローを吹き口から引き抜いて。」


 「こう?」スポッ。


 「おおーっ!パンパン!!シワもない!」


 「さっすが、僕達カモメより図体が大きなワシさんだ!肺活量も桁違いだなあ。」


 カモメのガノサンは、ポンポンとオオワシが膨らませたマイラー風船をカルク叩いた。


 「はーい!アディユ!この風船突き遊ぼ!!」


 「いいよおー!」


 「あー!ちょっと待って!」


 スターオは、そのマイラー風船にストローを吹き口に突っ込むと、




 しゅーっ・・・




 と、少し中の空気を抜いた。


 「はいっ!これで風船に余裕ができた。

 パンパンに膨れたんじゃ、思いきり突いたらパンクしちゃうぜ!」


 スターオは、翼でぽーんと少し萎ませたマイラー風船をガノサンに突いた。


 「あ、ありがとう!スターオさん!」


 「どういたしまして!」




 そのやり取りを見ていたのは、カモメのトフミだった。


 「スターオさん!俺にもマイラー風船分けて!俺も膨らまして遊びたい!」


 「いいよん!トフミさん。ストローいる?」


 「いんねえ。嘴でじかに膨らます。」


 「じゃあ、ほいよ!」


 スターオは、嘴でさっ!とトフミの嘴に、マイラー風船の吹き口に突っ込ませた。


 「さあ、息を吹き込んで!」


 「うん!」


 カモメのトフミは、鼻の孔から大きく息を吸い込むと、




 ぶぶぶぶーーーーーーーーっ!!




 と、息を思いきり吹き込んだ。


 すると、マイラー風船の表面に空気が震える音をたてて、膨らみ始めた。




 ぶぶーーーーーーーーーっ!!




 「ただいまーーーっ!ぷうっ!」


 「ぷふふふふふ!!トフミさんの顔!」


 そこに、カラスのカースケとカーキチがニヤニヤしながら戻ってきた。


 「トフミさん、頬っぺたが膨らみ過ぎて、カモメの顔じゃなくなってらあ!」


 「おかえり!カラス達!君たちもマイラー風船を膨らませてみる?」


 「うん!俺達、何度もマイラー風船は膨らませたことあるよん!

 中でも、俺達カラスの形のマイラー風船を膨らませたことあるよ!」


 「羨ましいなあ!」


 カモメのトフミは、頬っぺたをパンパンに膨らませた顔のまま、カラス達を振り返った。


 「ぷぅっ!」


 「ぷぷぷぷぷぷぷぷ!!」


 カラスのカースケとカーキチは、噴き出して笑う際に、ぷうっ!と膨らんだ頬っぺたに、今度はカモメのトフミが噴き出してしまった。


 「ぎゃはははははは!!」


 「ああっ笑ったなぁー!よし、このマイラー風船を膨らませるよぉー!膨らませ顔で勝負だよぉー!」


 「俺も膨らますぞっと!!スターオさん!俺にも風船をちょーだいっ!」


 「あいよ!カラス達!!」


 スターオは、カーキチとカースケにそれぞれ嘴にマイラー風船の吹き口を突っ込ませた。


 「せぇーの!」


 「せぇーの!」





 ぶぶぶぶーーーーーーーっ!!!!!




 ぶぶぶぶーーーーーーーっ!!!!!




 「ギャッハハハハハハハハハハ!!」


 パンパンに膨らませたマイラー風船を、翼でぽーんぽーんと突いて遊んでいたカモメのトフミは、はち切れんばかりに頬っぺたを膨らませたカースケとカーキチの顔にを見て、思わず笑い転げた。


 「ぷぷっ?」


 「ぷうっ?」


 カーキチとカースケは、お互いの顔を見合わせた。


 「ぷぷぷぷぷぷぷぷ!!」


 「ぷぷぷぷぷぷぷふふふふ!!」


 カーキチとカースケは、カラスとは思えない程に、めいいっぱい膨らんだ頬っぺたのお互いの顔に、マイラー風船を膨らませながら、含み笑いをしたが、やがて・・・



 「がははははははははははは!!」

 

 「がははははははははははは!!」


 と、マイラー風船の吹き口を嘴から噴き出して、大きく笑い転げた。

 



 ばぁーーーーーーん!!




 「ひゃっ!」


 「ぎゃーーっ!」


 突然、ウミネコのプリテンダが突いていたマイラー風船がパンクした激しい音で、全部の鳥達はビックリして、小屋から逃げ出した。


 「うはっ!ごめんちゃい!風船割っちゃった!!」


 ウミネコのプリテンダは、それぞれの鳥達の抜けた羽毛だらけで嘴に裂けたマイラー風船をくわえて、スターオにやって来た。


 「だ、大丈夫だよ。セロハンテープで裂けたとこを空気が漏れないように補修すれば、まだ膨らませて遊べるからね!」


 「あっ!俺にもマイラー風船ちょうだい!」


 オオセグロカモメのインディは興奮して、せがんだ。


 「あちきにも!」


 「僕にも!」


 「あたしにも!」


 「わいにも!」


 「あたいにも!」


 「おらにも!」


 「あ、わてにも!新品の風船膨らましたい!」


 他のカモメ達や、カモのマガークもマイラー風船をせがんだ。


 「あいよー!ちょっと待っててね!!

 カモさんは、ストロー付けるよ!!」


 「お、俺はゴム風船をください!!なるべくでっかく膨らむやつ!」


 オオワシのリックは、義足カモメのスターオに、黄色い嘴からふん!ふん!と鼻息を荒くしてせがんだ。


 「オオワシさん、でっかく膨らむやつっていいのかなあ?レアなんだけどねえ、アドバルーンは?」


 「アドバルーン?」


 「うん!これ!アドバルーン!布のでっかいアドバルーン!挑戦してみる?」


 「うん!」


 「じゃあ、俺達よりでっかい図体なら、パンパンに膨らませられるかなあ?はいっ!」


 オオワシのリックは、嘴にアドバルーンの大きな吹き口を、艶々した黄色い嘴を逞しい脚爪であてがって、お腹から肺に力を込めて、




 ふーーーーーーーっ!


 ふぅーーーーーーっ!




 と、顔を真っ赤にして、頬をめいいっぱい膨らませて思いっきり巨大なアドバルーンに息を吹き込んだ。




 ぜえ・・・ぜえ・・・


 「体の空気を全部使っちゃうかなあ?俺、萎んじゃいそう!!」


 オオワシのリックは、ハアハアと息切れをしながら言った。


  「オオワシが萎んじゃったら、チョウゲンボウになったりして!」


 義足カモメのスターオは、冗談を言ったとたん、


 どっ!


 「がははははははははははは!!」


 「ギャハハハハハハハハハハハ!!」


 と、鳥達は一斉に笑った。


 「ぶははははははは!!!」


 リックも、アドバルーンの吹き口を脚爪で空気が漏れないように押さえながら笑った。




 ふぅーーーーーーっ・・・!!


 ふぅーーーーーーっ・・・!!



 オオワシのリックは、雄大な翼でリックの吐息で満たされたアドバルーンを抱き抱え、一生懸命は頬っぺたをはらませて息を吹き込んで膨らませた。


 「おおー!さっすが、オオワシ!俺らより図体が大きいからこーんなに巨大なアドバルーンが膨らんだ!」


 ひょこひょこと義足でびっこを引きながら、カモメのスターオがアドバルーンのそばに近づいて、ポンポンとリックの吐息が詰まったアドバルーンの表面を撫でまわした。


 「いやあ・・・それほどでもぉ・・・」


 全部の吐息を使い果たしたオオワシのリックは、そのままフラフラとへたってしまった。


 「あっ!リックさん!だいじょーぶ?」


 マガモのマガークは、マイラー風船を膨らませたストローを、俯せになり舌を垂らしてハアハア言っているオオタカのリックの黄色い嘴の鼻の孔に突っ込んで、




 ふぅーーーーーーっ!


 ふぅーーーーーーっ!




 と、思いっきり息を吹き込んだ。



 むくっ・・・


 「俺をパンクさせる気かぁー!!」


 オオタカのリックは、ぱかん!とカモのマガークの体を翼で叩いた。


 「ごめんちゃーーーい!!」


 どっ!


 「がははははははははははは!!」


 「ギャハハハハハハハハハハハ!!」


 と、また鳥達は一斉に笑った。




 「みんなあーーー!!風船突きをしようっ!」


 「漂流ゴム風船で、風船膨らませ競争か風船割り競争しようよ!!」


 「わーい!賛成!!」




 小さな小屋が立つ、穏やかな海岸では、カモメ達やカラス達、カモやオオワシや、野次馬になって加わったウミウ達やシギ達、サギ達、ミズナギドリ達も加わり、

 

 お互いの鳴き声の歓声に交じって時折、風船がパンクする音も響き渡り、


 まるで、お祭りのように賑やかになった。


 


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