11#『カモメ風船倶楽部』の絆に涙するカモメ
「ちょっとのの前に・・・おーい!誰か『義足』と、伸びきってなさそうなゴム風船2個探して持ってきて!」
「はーい!」
ウミネコのプレテンダが返事した。
ガサゴソ・・・
ガサゴソ・・・
「はーい!『義足』と、風船お待ちぃー!」
『義足』は、針金のハンガーを捻じ曲げたものだった。
「おーい!『義足』装着するの手伝って!」
「はーい!」「ほいきた!」
ホイグリンのフィーバとオオセグロのガノサンが、背中で肩車して、スターオの右鰭脚に『義足』を装着させた。
「フィットするぜ!おしおし!力が沸いてきた!」
『義足』のスターオは、フンフン!と鼻息を荒くした。
「実はな、この義足は『カモメ風船倶楽部』の有志達が、漂泊ゴミの針金ハンガーから作ったんだ。
予備もいっぱいあるんだぜ!」
オオワシのリックは、にこにこして言った。
「おお!何て熱い絆なんだ!」
セグロのトフミは、思わず感嘆した。
「さあて、ウミネコのプリテンダ君?風船持ってるから丁度いい!
一緒に風船膨らましっこしないか?」
「ちょ・・・ちょっと!俺!俺は?俺と風船膨らまし競争は?」
「そうだ!トフミ!じゃあ、適当な萎んだ風船取ってきて一緒に膨らまそう!」
「はーい!」
トフミは、適当に青い風船を取ってきた。
・・・大きな風船だなあ・・・まいいか・・・
「スターオさんは、白い風船、
プリテンダさんは、緑色の風船ね。
じゃあ、他のみんなは、耳の穴塞いでぇーーー!3!2!1!せーーーのっ」
ぶおぉぉぉーーーーーーーーーーー!!
ぼぉーーーん!!
「なあっ!」
「はやっ!」
ウミネコのプリテンダとセグロのトフミは、茫然とした。
『義足』カモメのスターオは、たった0.5秒で、風船を膨らまし割ってしまった。
余りにも早すぎて、風船のパンク音
も、小屋の中で強烈に響き渡った。
「は、肺活量すご・・・!!」
セグロのトフミは、やっと風船に息が行き通って膨らむ寸前だった。
トフミは目が点になった。
スターオは、禍々しい顔をして言った。
「これが、俺の片足を失ったことへの『風船への憎しみ』の力だ。
「風船を葬ってやる!」
という気持ちが、気嚢に力を与えたんだ。
この風船群を見よ!
俺は、俺の手で風船を葬りたい!と思ってここに、漂流ゴミの割れてなく、ヘリウムガスが抜けて萎んだ風船だけを集めているのだ。
元々、俺が一つづつ嘴で膨らませ・・・」
パァン!
「誰?俺が説明してる時に、風船を割ってる奴は?」
「ご、ごめん!この風船は大きく膨らむと思ってたら、ただゴムが伸びきり過ぎてたみたい!本当にすいません!」
そこには、クシャクシャになって割れた風船の破片を顔に覆い被せた、青ざめたセグロのトフミの姿があった。
「おーい!君もだよ!」
「ぎくっ!」
トフミの隣では、ゴムが劣化して表面がボコボコと膨らむ風船に困惑している、膨れっ面のウミネコのプリテンダもあった。
「おほん!じゃあ、話の続きをしよう。
片足を失った俺は、昔に漁場だった頃のこの番屋を見つけた。
俺は、びっこを引いてこの『隠れ場所』に向かった。
ざっ!ざっ!
びっこを引いている脚に、違和感を覚えた俺は、思いきって翼を拡げて番屋の所まで飛んで移動した。
ざっ!
俺は、番屋の前に降り立っても脚に違和感を覚えた。
「おじゃましまーす!」
番屋の中には、ネズミさえもいなかった。
番屋に入って、薄汚れたガラス窓から射す光で脚の違和感が解った。
それは・・・
海から漂流してきた、割れたり萎んだ風船の紐で括られた束・・・!
またしても・・・
俺は、畏怖した。
「俺を歩けなくする気か!」
幸い、風船は引きずられただけで、脚に絡んでもなかった。
俺はその萎んでいる風船の吹き口を留めてある留め具を全部外し、その辺にあるゴミ箱を探して捨てた。
が、飛んでも片足のせいで、ゴミ箱には飛び上がれなかった。
ところが、
「俺、手伝ってやる。このゴミ箱に入れたいんだろ?」
通りすがりの2羽のカラスが、俺をアシストしてくれ、やっとゴミ箱の中に風船の留め具と紐を捨てることができた。
「ありがとう!カラスさん達!」
その時、まだ片足の俺のためにアシストに大勢やって来るとはまだ終わらなかった。
俺は、番屋に入った。
入ったとたん、目の前に見たのは割れたり萎んだりした、漂白ゴミの風船。
「お前らのせいだ!」
俺は癇癪を起こして、嘴で風船をくわえて地面にたたきつけた。
その日以来、おれはこの小屋の中に引きこもった。
ずっと・・・
ずっと・・・
ずっと・・・
ずっと・・・
また風船に脚ひっかかる・・・
風船か俺を虐げる・・・
怖い・・・
怖い・・・
トントン!トントン!
俺がこの小屋に引きこもって幾日が過ぎただろう、
突然、小屋のドアからノックがした。
「誰だ?」
小屋の前には、一羽のカモメが萎んだ風船を嘴にくわえて立っていた。
「風船の紐が絡まって片足を失ったカモメが、漂白風船を集める活動をしてると聞いて。」
風船をよくみると、皆紐は外され、ゴム風船本体しか持ってなかった。
「紐は?」
「取り除いて捨てた。だって脚に絡んじゃうだろ?僕もあなたも。」
・・・そんなこと頼んじゃないのに・・・
・・・風船なんかもう見たくないのに・・・
俺は、慎重に断ったが、その後にぞろぞろとカラス達が漂泊風船をどんどん持ってやって来た。
俺は、収拾がつかなくなった。
・・・ど、どうしよう・・・
・・・何でこんなことに・・・?
「ねえ、何で断るの?全部あなたの活動に心打たれたんだぜ?」
「えっ?」
俺は、考えてみた。
何で俺は、片足を失ったことがこんなに知られたのか?
それに、俺が風船の束を脚に絡まったという形のいかにも間接的だったのに、『拾った』って・・・?
「よお!久しぶりだな!」
そこには、かつて片足になったとたんいじめて、虐げた群れの仲間がやはり漂泊風船をくわえてやって来た。
「ゴンザ!トンキ!ティッピ!そして、みんな!!ありがと・・・ん?!」
「わーい!変な膨らみ方ぁー!」
「いびつな風船だなあ!」
「この風船、強烈なゴム臭ーーい!」
「風船がお化けみたい!きもーーい!」
「割れちゃう!割れちゃう!こわーーい!」
ウミネコのプリテンダは、片足カモメのスターオそっちのけで、ゴムが劣化した風船を
ぷぅーーーーーーーっ!
と嘴で膨らませて、 周囲の鳥達の注目を集めていた。
ひょっこひょっこ・・・
スターオは、義足を使ってびっこをひきながら、いびつな緑色の風船を一生懸命に膨らませている、ウミネコのプリテンダのそばに寄った。
「ウミネコさぁん!ど迫力ね。この風船!きもーーい!こわーーい!キャッキャッ!ウミネコさぁん!どうせなら、割れちゃうまで膨らませて!!」
「えー!いいの?割っちゃっていいの?」
困惑するウミネコのプリテンダをよそに、説明そっちのけで義足のスターオは、耳の穴を塞いでキャッキャッキャッキャッ!とはしゃぎまわった。
「いいの?本当にいいの?すぅーっ!」
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーっ!
「うわー!やばくなった!」
膨らますウミネコのプリテンダの顔は、青ざめた。
周囲の鳥達は、耳の穴を塞いだ。
すぅーーっ・・・
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーーーーーーっ!!
ぷぅーーー・・・
パァーーーーーン!!
「いえーーーい!!パンクしたあ!パンクしたあ!」
でかい音を立てて破裂した風船に、スターオは義足とは思えない程に、はしゃぎまわった。
「スターオさん・・・」
吹き口だけ残っている割れた風船をくわえた、ウミネコのプリテンダはただ呆然としていた。
「と、いうようにスターオさんは、『風船がパンクする』ことに快感してる位、風船を恨んでるみたいだけど、風船を恨んでるどころか、逆に風船を楽しんでるみたいだねえ。」
オオタカのリックは、そう言った。
「始めスターオさんは、皆が集めてきた風船を小屋の中で、黙々と嘴で膨らまし割ってたんだけど、
風船ゴミ探しの旅に出てた俺と、マガモのマガークが、小屋の中から風船のパンク音を聞いたのをきっかけでね!マガークくん!」
「割れた風船を、スターオさんから回収するようになったんだよねー!」「ねー!」
リックとマガークは顔を会わせてニヤリとした。
「そうさ!2羽の言う通り!
この出会いが、俺の『風船カモメ倶楽部』の始まりなんだな。」
興奮の余り、萎んだピンク色の漂泊風船の吹き口をくわえて戻ってきた、義足カモメのスターオが言った。
「俺は、あれから、
・・・せっかく、みんなが苦労して集めてきて持ってきた風船を、膨らますだけの一方通行でいいのか・・・
という思いから、カモメ達の交流と情報交換の場としてこの小屋を開放したんだ。
漂泊風船やゴミになって捨てられた風船を持ち寄って来たカモメは、誰も『風船カモメ倶楽部』の会員なんだぜ!」
「へ?じゃあ、俺の試験って何だったの?」
セグロのトフミは聞いてみた。
「うん!ただ、あんたの風船を膨らます様が見たかっただけ!
いいねえ!ほっぺたがパンパンだったぜ!」
義足のスターオはそう言うと、息を思いっきり吸い、嘴にくわえていた萎んだ風船をゆっくりと膨らませた。
「スターオさん、まともに膨らませられるじゃん!」
鳥達はスターオが、
ふ~~~~~~~
ふ~~~~~~~
と、風船を少しずつ息を入れる様にうっとりと見つめていまいた。
ニヤリ・・・
突然、スターオのほっぺたが顔の何倍も膨れたと思うと、
ぶぉーーーーーーーーーーっ!!
ぼぉーーーーん!!
物凄い勢いで風船に息を吹き込み、小屋が揺れる程、とてつもない音をたてて風船をパンクさせた。
「どひゃーーーーーつ!」
小屋の鳥達は、飛び回る程にびっくりした。
「あはは!めんごめんご!あれ?」
一羽だけ飛び上がらない者がいた。
「ううう・・・ううう・・・」
セグロのトフミは、目に大粒の涙を流して、義足カモメのスターオを見つめていた。
「スターオさん・・・凄いよ・・・みんな・・こんな脚にした風船を憎みながらも愛した結果、気遣う仲間がいっぱい出来たんだから・・・
すごいよ・・・これが『絆』なんだね・・・」
トフミは、スターオを翼で抱き締めておいおい号泣した。
「ひゃーっ!相変わらずドデカイ破裂音だねえ!スターオさん。」
小屋の前に、2羽のカラスが舞い降りてきた。
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