9#試験を受けるカモメ

 「ほお・・・ここが『風船カモメ倶楽部』の本拠か。」


 波風に煽られてボロボロになった小屋の中には、鼻がつんさぐ位のゴムの臭いが漂っていた。


 「うっひょーーーーー!」


夥しい漂泊風船がびっしりと積んであった。




 ゴム風船や、マイラー風船。




 しかも、全部割れていない、ただヘリウムの浮力が無くなって萎んだ風船ばかりだった。




 「こ、これ!どれかを膨らますんでくか?スターオさん!」


 「いいや、これらは全部ゴムが伸びている。お前さんが膨らますのは、この新品じゃ!」


 オオセグロカモメのスターオは、片足をひょこひょこと飛びはねながら、小屋の奥に行き、真新しい膨らませてない新品の赤いゴム風船を嘴にくわえて持ってきた。


 「これ?ゴム固そう・・・」


 「いいか、これを割れるまで膨らませろ!」


 「割れるまでですか?」




 トフミは困った。




 ・・・風船よりも、頬っぺたがパンパンになりそうな位ゴムが固く、それを割れるまでって・・・

 ・・・しかも、新品の風船は割れる音はドデかく半端じゃないし・・・




 「さあ、鰭脚で風船を伸ばして膨らましぐせをつけてぇーーー!息を思いっきり吸ってぇー!吸ってぇー!吸ってぇー!吸ってぇー!吸ってぇー!肺を空気で充たしてぇーー!吹き口を嘴にくわえてぇーーーー!いっせぇーーーの!吹けーーーーーー!」




 ぷ・・・ぷぷぷぷぷ・・・


 セグロカモメのトフミは、頬っぺたが、顔を倍の大きさになる位パンパンにし、顔を真っ赤にしてこの世のものとは思えない凄い形相になって、必死に新品の赤いゴム風船に吐息を吹き込もうと力んだ。


 「おいおいトフミよ!鰭脚で風船を固定するのはいいけど、爪を風船にたてるな!爪を!そうやって横着して、失格になったカモメが多くいたからな!

 鰭の甲を風船に向けろ!鰭の甲を!」




 ・・・何いってんだよ!このびっこカモメは・・・


 カモメのトフミは、お腹にぐっ!と力を入れて、風船に息を必死に吹き込もうとした。


 ぷぷぷぷぷ・・・ぷぷぷ・・・




 やがて・・・




 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!



 

 ようやく、カモメのトフミの風船はぷくっ!と膨れた。


 


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぜえぜえ・・・




 「おっ!段々丸くなってきたぞ!」


 片足のスターオは、翼でぽんぽんとトフミの膨らましている風船を叩いた。


 ・・・うわっ!そんなに風船叩かないでよ・・・!

 ・・・拍子でパンクしたらどうするんだよお・・・!


 カモメのトフミは、この風船がいつ割れるかいつ割れるか・・・と恐怖と興奮で入り雑じった思いだった。




 すぅーーーーーーっ!



 思いっきり息を吸い込んで、気嚢に空気を溜め込んだトフミは疲れる鰭脚から、抱ける翼に風船を持ちかえた。


 トフミは、嘴に風船の吹き口をくわえると、再び渾身の力を込めて息を吹き込んだ。


 


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!! 


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ふぅ・・・


 ふぅ・・・


 すぅーーーーーーっ!


 「ん?」


 嘴の鼻から、息を思いっきり吸い込んだ頬を膨らましたトフミは、風船のを見て、ビックリした。


 ・・・げえっ!風船の付けねまで膨らんでる!パンク!しちゃう!ぱ、パンク!でかい音!怖い・・・!


 カモメのトフミは恐怖の余り、洋梨のようにパンパンに膨らんだ風船の恐怖に、体を硬直させた。


 「おい、トフミー!怖じ気づいたのかい?そこまま、嘴外して風船の空気ぷしゅーさせて、萎まさせてもいいんだぜー!

 その時点で失格だからさぁー!」


 片足カモメのスターオは、野次を飛ばした。


 ・・・分かったよ!分かったよ!よーーし!もうやけだ!猛烈に息を入れて風船を大爆発させてやる・・・!




 すぅーーーーーーっ!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!




 ・・・やべえ!遂に嘴の先まで膨らんだ・・・割るぞ!割るぞ!パンク!パンク!パンク・・・!




 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーーーっ!!



 ぷぅーーーーーっ!!


 しゅぅーーーーー・・・



 

 ・・・ん!?・・・



 バァーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




 「ひゃーーーーーーーっ!!」


 風船を膨らますカモメのトフミを見守っていた、『風船カモメ倶楽部』のメンバーと、オオワシとマガモは、小屋全体が揺れる位にドデカイ音をたてて破裂した風船に皆、ビックリして飛び回った。


 「ぜえ・・・ぜえ・・・」


 割れた風船の残った吹き口をくわえ、カモメのトフミは赤い顔をして仁王立ちしていた。



 「よし!トフミ!『風船カモメ倶楽部』合格!!ぎゃあーーっ!」


 片足カモメのスターオは、あの割れた風船と同じ位の大声を張り上げた。 

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