『手と手と繋いで』
「ふ~ん。それで、結局、四体全て戦闘不能には出来たのね?」
「はい。完全破壊は一体のみで、残りは精々中破といったところですが……十二分以上の成果かと」
「先の戦の際は、ノルンの策で半数はほぼ無力化し、残りはあいつと羽黒猫で対処した筈ですから、快挙かと思いますが」
「んーそうね。まぁ……今回はこんなものかしら。シャロン、ブレンダン」
「「はっ!」」
私達の目の前で、オリヴィア様は書類を見ながら何事か考えられていたかと思うと、視線を上げられ笑顔を浮かべられました。
「護衛隊の編成及び、南方視察の準備、ご苦労でした。このまま進めていいわ」
「あ、ありがとうございます!」
「陛下、一点だけよろしいでしょうか」
「何かしら?」
「その……やはり、直接護衛がノルンだけというのは……」
「問題ないわ」
「ですが!」
「ブレンダン」
オリヴィア様は笑顔のままだ。今日もその御姿は神々しい。正しく『聖女』そのもの。
が……部屋の空気がいきなり重たくなる。気圧されているのだ。
「ノルンと忌々しいけれど、あの羽黒猫が直接護衛に付いてくれる以上、私の周囲は帝国内の何処よりも安全よ。それよりも、他の子達の心配をなさい」
「……はっ」
「不服そうね」
「そ、そのような事は」
「それじゃ、貴方達二人に尋ねるけれど――今回の護衛隊選抜試験で使った『巨神』、しかも八体が私を殺そうとして、防げるかしら? シャロン?」
「……我が親衛騎士団の総力を挙げまして」
「ああ、勿論、一人の犠牲者も出さずによ?」
「…………」
「ブレンダン?」
「……不可能です。少なからず死者は出るものと」
「なら」
オリヴィア様の笑みが変化し、心底誇らしい、といった表情へ。
頬を少し赤らめ、私達に告げる。
「貴方達はまだ、あの人に――ノルンに辿り着いていない。彼は訓練場ではなく、戦場であの『巨神』八体と対峙し、指揮下にあった『黒狼』から一兵の死者も出さず、四体完全破壊、四体撃破の戦果を挙げてみせたわ。シャロン、今回の訓練、当然、死者は出ていないと思うけれど」
「……あの猫がいなければ、多数の死者が出ていたでしょう」
「処置無しね。護衛隊が軍の最精鋭なのは認めるし、有事には彼の指揮下に置ける練度なのも分かったから、口出しはしないけど」
「……差し出がましい口を」
オリヴィア様が軽く手を振られる。気にするな、ということのようだ。
……それにしても、重い。依然にも感じたが、あいつの――『黒色道化』の、ノルンの奴の存在が。
いったい、何時になったら私達はあいつに追いつけるんだろう?
『馬鹿が。そんな事を言っている間は、永遠に追いつけんな。いいか? 俺はもう死人なんだぞ? そろそろ、休ませろ』
うっさい! 勝手に死んで、勝手に生き返って……とっとと追い抜いてやるわよっ!!
「それじゃ、もういいわね? 護衛等々の件は私から説明しておくわ。お疲れ様」
※※※
「ふふふ~♪」
「……阿呆。余計に頭が悪く見えるからその鼻唄は止めろ」
「うふふふ~嫌です♪」
皇宮内庭のベンチに腰掛け、資料を読んでいるノルンの膝に頭を載せながら私は鼻唄を継続します。
だってだってだって!
夢にまで見た、ふ・た・り・き・り! なんですよ? 仲良く手と手繋いで!
正直、シャロンと副長が、護衛選抜試験に『巨神』を持ち出すとは思いませんでしたし、内心冷や冷やしてました。しかも案の定、何とかしてますし。
……うちの人達って、ちょっとオカシイと思うんです。
だって、『巨神』ですよ、『巨神』! あんなの、普通は倒せる筈ないじゃないですか。
ノルンが倒したのは――全部、私の為ですし? えへへ。
「主よ、またも狂人が変な妄想を抱いておるぞ? やはり、こやつは、今ここで処理した方が良いのではないか?」
「ちっ! 出ましたね、御邪魔虫! ……貴女でしょう! あの二人に『巨神』はどうじゃ? とか言ったのは! 何時も何時も何時も!! 邪魔ばかりしてっ!! でも、残念でした。私とノルンは南方視察中、ず~っと一緒ですから!」
「……我の筈がなかろうが。幾らなんでも、鬼畜の所業ではないか。何せ『巨神』ぞ? しかも、大陸で稼働中の全ての『決戦型』ぞ?? 心優しき我には、そんな事出来ぬ」
「はぁ? じ、じゃ、誰があんなの引っ張り出してきたんですかっ!? 下手しなくても、あれは都市攻撃乃至は防衛用の……ノルン」
「何だ」
「……どうしてですか?」
膝の上から彼を睨みつけます。
む~危うく、二人きりじゃなくなるところじゃないですかっ!!
何ですか? 私と二人きりになりたくないんですか? そうなんですか!?
……あ、考えただけで鬱です。
もう、世界を滅ぼしましょう。そうしましょう。そして、その後で――へ?
わわわ私の頭に彼の優しい手が! え? ええ? えええ!?
「怒るな。必要措置だ」
「……駄目です。許しません」
「主よ、許さなくても良いのではないかの? の?」
「ええーいっ、飛んできなさい!」
上半身を起こして何時もの布製ボールを投擲――なっ!? 追っていかない!!?
しかも、鼻で笑ってる!? きー!!!
……ふふ、だけど、甘いですね。こんな事もあろうかと。
懐から、マタタビ入りの小袋を取り出して、放り投げます。あ、追っていきました。所詮は獣です。今回も私の勝ちですね!
彼の控えめな笑い声が響きます。
戦場や交渉の席で聞いたそれとは違う――とても、穏やかなそれです。
「む~ノルン」
「許せ。南方視察中は付き合ってやる」
「……信じられません! 証拠が欲しいですっ!」
「そうか」
「そうです!」
「仕方ねぇなぁ」
彼がおもむろにポケットから小箱を取り出しました、
中から出てきたのは、透き通った魔石が綺麗なネックレスです。そして、呆然とする私の首へ付けました。
…………はっ!
意識が飛んでいました。え? ええ? えええ!?
かかか彼が私にプレゼントを!!?
あ、明日、帝国は滅びるんでしょうか? いやまぁ、彼と一緒なら滅んでもいいんですけど。
一緒なら全部、大丈夫ですし。私に怖いものなんてありませんしっ!
「まぁ、それで許せ。『巨神』位の物理攻撃と、既存の魔法、状態異常等々は全部弾く。寝る時も付けてろ」
「何ですかぁ~『私は俺のモノ』アピールですかぁ? ふふふ~ようやく分かってきたみたいですね!」
「阿呆。いらないなら返せ」
「嫌ですぅ~一生、返してあげません! ……だけど、今度は指輪がいいです」
「…………」
彼が私の頭を強く撫でまわします。照れなくてもいいんですよ?
何時だって、この瞬間だって、私は待ってますからっ!
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