『護衛選抜試験』
帝都郊外にある大訓練場には、既に士官と兵が集まっていた。
所属を現す軍服は帝国最強最精鋭、俺達『黒狼』の黒服。そして、紅服の親衛騎士団。他にも、精鋭師団のそれが混ざっている。
表情には強い緊張。
これから、陛下の南方視察に付き従う面子を選ぶってんだから、当然か。
問題は、だ。訓練場に流れている雰囲気だ。恐ろしく、重く、冷たい。
……この空気、前にも経験したような。
身体が勝手にガタガタと震えだす。見れば、俺の周囲の連中も同じだ。どうやら、俺と同じ想像したらしい。
今回は、『黒狼』最古参の人達も参加しているが……顔は引き攣っている。
勿論、陛下の護衛、となればそれは名誉だ。故郷の両親にも自慢が出来る。
が……その前に何度か殺される、となれば話は別だ。
俺の予想が正しければ――大訓練場に置かれている指揮場に女騎士が立つ。
恐ろしく美人。が、それも外見だけ。
俺達、『黒狼』は極一部の例外を除けば、この大陸に恐れるものなどない。けれど、あの御方――帝国親衛騎士団団長『大騎士』シャロン様は別。
うちの副長と士官学校は同期だったらしいが、剣・魔法の腕はほぼ互角ってんだから恐ろしい。
副長は、かつて戦場で勇名を馳せ『道化の片腕』と謳われた、本物の化け物。俺達、新米ならば数十人相手でも片手であしらう猛者だ。その人と互角ってのは……出来れば関わりあいたくない相手だ。
シャロン様の隣には、うちの副長が無表情で立っている。その肩には見知った黒い物体……うへぇ。
「皆、ご苦労様! これより、護衛選抜試験を行います。が、貴官等は精鋭中の精鋭。今更、座学など必要ないでしょう? 今回は、シンプルに行います!」
シンプル?
冷汗が止まらない。こ、こいつは……最悪の……。い、いや! 俺達はもう最悪を経験している!! あれ以上の地獄はない……筈だ。多分。
シャロン様が一歩下がり、副長が前に出てくる。
「『黒狼』副長だ。今回の護衛隊は陛下のご配慮により少数精鋭。一人たりとも弱卒はいらぬ。必要なのは一騎当千の猛者のみ! 故に――諸君等に相応しい相手を用意していただいた!!」
相応しい相手……?
副長の肩に乗っていた羽黒猫が浮かび上がり、その前方に巨大な魔法陣が構築された。
そして、そこから出てきたのは――おいおいおい、マジかよ……?
魔法陣から現れたのは鋼鉄の巨神だった。
全高はゆうに、20Mを超えている。この大きさ明らかに……『決戦』型だ。
帝国の仇敵であった魔導国が、劣勢の戦況を挽回すべく、対帝国用兵器として量産、戦場に投入し猛威を奮った兵器『巨神』。
その中でも、『決戦』型と呼称された末期のそれは、大量生産を端から諦め、絶対的『個』の暴力を突き詰めた兵器だったらしい。
魔導国、首都の眼前で行われた決戦において、八体が戦場に投入され……悉くが『黒狼』によって沈められた、と聞いている。
なんでそんなもんがここに……いや、分かり切ってることか……。
恐る恐る、隣で顔をますます引き攣らしている、最古参の准尉(下士官からの叩き上げだ。悪魔よりもこええ)に尋ねる。
「……准尉、あれは洒落にならないと思うんですが」
「……洒落にならねぇなぁ。あの時も、死ぬ思いをした。もう二度と顔を拝むのも御免だと思ってたんだが」
「具体的な倒し方なぞは……?」
「ない」
「……はっ?」
「ない。中位までの魔法は完全無効されるし、上位魔法でもほとんど削れん。剣や槍は言わずもがなだ。で、あの巨体。攻撃力も半端じゃない。まともに受ければ即死だ」
「…………どうやって倒したので?」
「落とし穴に嵌めて、延々と削り殺した」
「…………はぁ」
「と、言っても俺達がやったのは半数だけだ。残りの半数は――分かるだろうが? その時に、回収されたんだろう。あの御二方は、研究熱心だからな」
「……なるほど」
もう一度、大訓練場に現れた巨神を見やる。
いやいやいや。こんなの、どうやって倒すんだよ!?
落とし穴を掘るか? だが、そんな暇あるのか??
周囲に動揺が走る中(『黒狼』最古参だけは顔を引きつらせながらも笑みを浮かべている)、副長が口を開いた。
「見ての通りだ。戦場を疾駆したしぶとい者なら、見たことがあるだろう。今回の相手はこの『巨神』だ。かつて我が『黒狼』は討伐した事があるが……落とし穴を掘るのは止めておけ。効かぬし、機動性が著しく向上している。実験で、私と親衛騎士団団長とで挑んだが……中々、骨がある相手だ。心せよ」
空気が凍る。改造済みかよっ!?
と言うか、倒したのか……やっぱり、こええ……。
ざわつく俺達を見ていた、羽黒猫の目がキラリ、と光った。あ、ヤバイ。
副長の耳元に何かを呟く。副長は、少し悩んだ後――頷いた。
そして、シャロン様へ一言、二言。苦い顔をされた後、やはり頷く。
……ヤバイヤバイヤバイ。何がヤバイか分からないけど、とにかくヤバイ。
羽黒猫が再度、巨大な魔法陣を構築。
そこから現れたのは……いや、死ぬって、これは……。
「皆、喜べ! 一体だけで不足じゃろう? と、更に『巨神』三体を加えてくださった!! これらを倒した者を今回の護衛隊とする!!! 諸君の奮闘を望む」
「かつて、戦場で実際にあの男と猫が倒した相手よ。ならば――倒せるわ。倒してみせなさいっ!!」
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