正直に言う男

五川静夢

正直に言う男

 その日、私は友人のAにより市内某所の喫茶店に呼び出された。



「いきなりだけど正直に言っていいか?」



 ウエイトレスに注文を終えた頃、私の友人であるAは切り出した。


「どうぞ」


 私は短く返した。

 彼とは長い付き合いだ。Aがどういう人物かはよく知っている。


 とにかく物事に対してはストレートな物言いをする男だ。


 私は彼のそういう部分が好きだった。そして嫌いでもあった。だが、いまとなってはそれほど気にもならない。むかつくときはあるが。


 まぁ、それはおいといて。今回はなんの用件なのだろうか。

 私に不満があるのはわかるが。


 なんとなく私が机に指を打ち付け、軽く思案していると。


「正直に言って、黒い服は……おまえにぜんぜん似合ってないぜ?」


 友人Aの手痛い先制口撃がとんだ。

 うーん腹が立つ。まぁ、いいけれどさ。


 というわけで、ブレンドコーヒーが到着した。

 去っていくウエイトレスの優雅な腰つきを横目に見ながら、私はカップに口をつけてゆっくりとブレンドをすする。


 ほろ苦い風味が口の中いっぱいに広がる。

 Aはそんな私の様子には、お構いなしに続けた。



「おまえはそういう地味な服は今まで着てこなかっただろう? 今日に限ってなんでそんな黒服なんだよ。ファッションセンスを疑うね」



「なるほど、ね」

 軽く相槌しつつも、Aの言葉に私も口を開くことにした。

 そろそろ真相を教えてやらねばなるまい。




「じゃあ、私も正直に言っていいのか?」




 すると、Aは待ってましたとばかりに身を乗り出した。

「ああ、正直者は大歓迎だ」



 ほう。それはよかった。


 それじゃあ、言わせてもらう。


 私はソーサーにカップを置くと、手短に済ますことにした。

 びりびりとした空気が漂う。


 心臓の鼓動がいつもより少し早くなった気がした。


 真実を告げるタイミングってのはいつも難しいもんだ。

 そんなことを感じながらも。

 私はAに告げる。
















「……お前、昨日死んだんじゃなかったか?」











 私の目の前にいたAはすべてを悟ったようだった。

 ウエイトレスがシルバートレーを手にして、すぐそばを横切っていく。








 Aは手を打ってつぶやいた。

「あー!だから喪服だったのか〜!」






 私はそんな彼の言葉を耳にしながら、ウエイトレスを横目でちらりと眺めた。

 ここのウエイトレスの制服は、他の店のそれよりも可愛い。

 彼女は見ようによっては、まるで楽園に咲く一輪の花のようにも見えた。

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正直に言う男 五川静夢 @sizumu0326

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