第2話 職業適性抽選会

 俺、付加賀実は今、目の前で起きている事に動揺している。正義心から召還の儀式を止めようと飛び出してしまったのはいいものの、タイミング悪く頭上から召還されたバスタオル一枚のみを羽織った女の子に押しつぶされた挙句、悪い夢の中で強姦魔に襲われているかのような、悪い人を見る強い視線をその女の子から向けられている気がする。


「無礼者!!」

 横から秘書みたいな女性が飛び出してきた。

「貴様、この儀式の邪魔をするんじゃない!牢獄送りになりたいのか!」


 言い知れぬアウェーな空気感、観衆の視線が俺に集まっている。

 ここは謝るべきか?いや、相手は人を拉致している連中だぞ?


「お前ら人を勝手に召還して何様のつもりだ!」

 大声で言ってやった。


 ……静寂が周りを包み込む。

 すると老人が口を開いた。

「まあ、待ちたまえ、こういうトラブルはよくあるんじゃ、安心せい」

 この老人今までもこんな事してきたのか?!


「詳細については後で詳しく話す、なにお前が考えているほど残酷なものではない」

 また脇からボディガードのような男達が俺の退場を促す。

 咄嗟の判断だった、今の俺がもしレベル7000以上ならこんな取り巻きデコピン一つで吹き飛ばせるかもしれない、あんな老人に魔法が仕えるんだ、俺にできない訳がない。


 俺は右手を突き出し、今にも弾けんばかりに中指に力を入れ構えた。

「俺を甘く見るなよ…」


 老人や周りのボディーガード達は驚き硬直した。

「…ハッハッハ、小生意気な奴もいたもんじゃなー」


「くらえッ俺の必殺、エクセリオン・バスターーー!!!」


 ヒュゥンッ!!

 俺の中指は生きてきた中で今までに無いほど高速に風切り音を鳴らしデコピンを打ち出した!


 だが、現実はそう甘くはなかった。

 例え異世界にきても異能に目覚めるという事もなく、空しく宙を切っただけだった。

 その後の事はよく覚えていない…。


 ―――

 ―――あれ、ここはどこだ?


 変な夢だった、俺のスマホがトイレに飲まれたり、変な世界で恥を欠いたり。


「おーい、起きろー」


 女性の呼ぶ声がする。

 現実世界でも起こしてくれるような女性と暮らしている覚えはない。


「はぁ、出遅れちゃったじゃない」

 可愛い声だ、遂に俺は天国に着いちゃったのかもしれない。

 薄ら目を開けてみると――


「あみゅめみぃ?!!!」

 自称猫族の少女の顔が大アップで映る。

 慌てて飛び起きると、そこは召還に使われた大広間の脇ある絨毯の上であった。自称猫族の少女アミュメェミィはその絨毯の上で寝ている。俺と添い寝をしていたのか?


「ちょっと…」

 肩をぽんぽんと叩かれ振り返るとそこには先ほどまでバスタオル姿であった少女が、中世ヨーロッパの駆け出し冒険者が来ているような、Tシャツ短パンの姿で立っていた。


「なんか、私、変?」

 自分が見られている事に気づいた少女は身を捩ったり、服が変でないかチェックしている。


「あぁ、ごめん、着替えたんだな」

「…変態」

 ジト目で訴え掛けられる。

「あれは違うんだって本当にさ…」

「いいわよ、一応状況は理解したから、君が中二病だってことも」

 耳を疑った、がすぐ理解する。

「あれの事か」

 少女は右手を伸ばしデコピンのポーズをとった

「俺の必殺、エクセリオン―――」

 少女が言いかけたと同時に咄嗟に彼女の口を塞ぎ、腕を掴んで下ろさせた。

 頷きながら少女にやめるように促す。

 少女はびっくりしたのか顔が真っ赤になる。

「へっ変態!!!!」

「ちがうちがう!あれは無かった事にしろ!黒歴史だ!」


 少女は一歩後ずさった。

「どーしましょうかねー」

「悪かった、この通りだ」

 俺は頭を下げる。

 少女は口元に手をあて少し思案した。

「じゃあ、私とパーティーを組んでくれる?」


 一瞬理解に戸惑った、パーティー?

「どういうことだ?」


 彼女は今までの経緯を語った、俺がデコピンを放った後、男たちに殴られて気絶した事、その後も召還の儀式が行われた事。そして老人から詳しい話があったそうだ。


「それで、俺たちなんで召還されたんだ?」

「驚かないで聞いてね、私たちは今後発売されるスマートフォンの☆2キャラになるかもしれないんだって」

「へ?」

 ☆2、俺のスマホゲー歴で最も親しみのあるレアレティのキャラだ。そのキャラになる?

「でも、もしかしたら☆2以上の存在かもしれないから、クエストで私たちを試す気みたい」

「ここはゲームの世界なのか?」

 信じたくないがクエストやら☆やら言ってるという事はそういう事なのだろうか?


「そうなのかも?」

 少女もそこは説明されていないのか疑問な様子だ。

 視線をめぐらせると大広間には先ほどの多人数は居なくなっており、俺と少女、猫娘と王冠を被った老人だけであった。


「皆はそのクエストに行ったのか?」

 少女は頷く。

「君が寝てるからみんな出て行っちゃった」

「あれ、君は何でここに居るんだ?」

 少女は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔した。

「それは、君が面白そうだから、かな?」


 ☆2でも面白いやつって居るが、俺ってその分類に入ったのだろうか…。


「名前、名前教えてよ」

「あぁ、俺の名前は付加賀 実だ」

「うんわかった、私は平等院 聖恋(びょうどういん せれん)」


 せれん、キラキラネームみたいなものなんだろうか、それとも現代では当たり前なのだろうか。

「実くんでいい?」


 ちょっとドキっとした、あまり下の名前で呼ばれた事が無い為か、あだ名は加賀とかミノムーとか色々あったが。

「いいよ、平等院…さん?」

「セレンって呼び捨てでいいよ」

「それはえーと…恥ずかしいというか何と言うか」

「せっかく異世界なんだからファーストネームで呼び合おう?」

「わかったよ!セレン!」

 何故か声が大きくなった、セレンはニコニコしている、からかわれているのだろうか、俺ってやっぱ上がり症…。


 周りを見渡すと老人がさっきからずっと同じ方向を虚ろな目で見つめている。

 セレンが手招きして俺を老人の方へ呼んでいる。

 俺はもう老人とは関わりあいたくないと心底思ったが、仕方が無く近寄った。

「大賢者さん」

 セレンが老人に声を掛けた。ん、大賢者??

「おぉやっと目が覚めたか、全員見送らないと片付けができんから困っとったんじゃぞ」

 老人は自己都合で説教を始めた。

「いいなりになんてなりませんからね」

「ハッハッハ、息のいい事、そうじゃ何か質問はあるか」

 聞きたいことは山ほどあった、何よりも重要な事を真っ先に聞いた。


「俺たちを帰して欲しい」


 老人は悲しそうな表情をして見つめてきた。

「帰りたいか?」

「当たり前だ、家族も心配するし会社にも迷惑が掛かる」

「ふむ、それなら心配はない」

「はっ?」

「お前の世界のお前は普通に生活しているからな」


 困惑した。お前の世界のお前の普通に?

「つまり、代理のお前を生活させているから心配する人はおらん」

「なんだって?!」


 少しだけ会社に行かなくていいという事に喜びを感じそうになった、これは罠だ、そうに違いない。


「じゃあ、本物の俺たちはいつになったら帰れるんですか」

 老人はひげをもてあそぶ。

「それは、きちんと☆2である事を確認したらじゃな」

「どういうことです?なんで俺たちなんですか?」

「そう焦るな、急いては事を仕損じるぞ」

「はっきりしてください!くそじじい!」


 その途端、老人は目をカッと開けて末恐ろしい表情をした。

「すいませんじじいは言い過ぎました」

「ワシはそんなに老けてはおらんぞまったく…」


 老人は近くに設置されたテーブルの上の青いボックスを指した。

「とりあえずだ、そのボックスから紙を取り出せ」

 セレンの方を見ると体育座りで頬杖をついて如何にも「まだ?」と声が聞こえてきそうだ。


「これはなんですか?」

「それは職業抽選ボックスじゃ、お前に最適な職業を見出す不思議な箱じゃよ」

 俺は納得は行っていなかったが、自分が☆2というのも癪であり、現世での心配が無いと聞き、なんとなく冒険に興味が沸いてきた。

 セレンが近寄ってニコニコし始めた。やはりガチャっぽいものはワクワクするものだろうか。


「ついでに聞いておくが、セレンは何の職業だった?」

「私は、魔剣士だったよ」


 ま、魔剣士、だと?一粒で二度おいしい的な、なんか凄そう。俺は大剣とか双剣とかそういういかにもな前衛職が良い。後ろで杖を持って駆け回るなんてごめんだ。


「引くぞ?」

「魔導師かな?」

 ツッコミたくなったがやめた。


 ボックスに手を入れると、おびただしい量の光が箱からもれ出る。いちいち大げさでサーカスの舞台装置みたいだ。

 そして俺は手探りで紙であろうものを掴んだ途端、箱は仰々しくガタガタと音を出し始めた、俺は慎重に紙を取り出すと、箱はプシューっと何かが抜けるような音がした。


「何が書いてあった?」

 セレンはピンク色の髪の毛を揺らしながら覗き込んでくる。


 ???


 そこに書かれた職業名は、???だった。

「なんだこれは壊れてるのか?」

「これってバグ?」


 すると老人が近寄ってきた。

「なんじゃ、これは」

 老人にも想定できていなかったようで、髭をぐりぐりと弄っている。


「こりゃー、名称未設定の職じゃな」

「どうすれば?」

「わしにも想像できんものを引き当てるとは、やるなあ小僧」


 やるなあじゃねーよ!


「まあよい、次じゃ次、お前の世界で言う武器ガチャの時間じゃ」

 武器ガチャとは何故か武器が得られるがちゃがちゃである、まんまだな。


「今回は特別じゃぞ?」

 そういうと虹色に輝く宝石を大量に手渡してきた。

「隣の大きな箱に入れるが良い」

 足元に設置された1mぐらいの箱を老人が指差す。


「武器って何が装備できるのかな?」

 セレンが宝石を見ながら考え込んでいる。

 武器は職業との相性があり、ゲームの世界の常識では適応できない武器は装備できない。

 思案していると、いきなり横に自称猫族のアミュメェミィが現れじっと宝石を見つめている。


「なんですかね…」

「ハッごめんにゃ☆綺麗な宝石だにゃーと思って」

「あげませんよ」

「大丈夫にゃ」

 そういいながら既に彼女の手が宝石を一つ摘んでいる。


「ちょっと私たちはさっき回したでしょ」

 セレンはアミュメェミィの腕を掴んで引っ張る。

「放すみゃーーー!!」

 ナイスセレン!


 箱にじゃらじゃらと100個ぐらいはありそうな宝石を流し込む、すると眩い光と共に勢いよく武器が次々に飛び出し、結果的に10個の武器が宙を円を描くように神々しく周っている。

「どれも同じ色の光だな」

 アミュメェミィは宙を周る武器らを目で追っている。目に合わせて頭も回転させている、猫じゃあるまいし。


「見事に全部☆2ね」


 セレンがズバッと痛いとこを指摘する。

「ねぇ、何が装備できるか早く確かめましょうよ」

 そう促され、俺は早速一つ目の剣であろう《ハリセン》を手に取った。

「うん、普通にハリセンだな」

 適当に振ってみると風切り音の心地良い音がする。


「面白い形の武器だにゃ↑」

「次は持てるの?」

「次行くぞ」


 次々とピコピコハンマーやらアイスの棒やらなんの職業の武器なのか分からないようなものを手に持って振ってみるが、何の問題なく使える。


「全部使えたね?」

「これって持てない職業だとどうなるんだ?」

「貸して?」

 セレンは俺の手に持っていた巨大な棒状のふ菓子を両手で掴むと、ふ菓子は物凄い不安定にグラグラと揺れ始めた。


「わ!すごい生きてるみたい!」

 辛うじて持ててはいるみたいだが、持つのが精一杯といったところだろうか。

「わっ!」

 セレンからの手からツルっと滑る様にふ菓子がすっぽぬけ上空を舞う。

 一回転し、アミュメェミィの頭に激突する。


「はみゃっ!!」

 ふ菓子は弾けて地面に落ち、大広間をコロコロと転がっていく。

 それをみたアミュメェミィは目を輝かせながら追っていき、右手でパンチを食らわせると物凄い勢いで加速し、壁ぶつかり跳ね返ってアミュメェミィの元へ返ってきた。

 すかさず右手でパンチし、アミュメェミィとふ菓子のじゃれあいは始まった。


「ふ菓子だからこんな軽いってわけじゃないよな」

「試す?」

 そういうとセレンは如何にも切れ味の良さそうな巨大文房具のようなカッターを指差す。

「いや、いい」

 流石に見るに耐えない光景になりそうな予感がしたからだった。

「もしかしたら?」

「いや、いい」


 中でもマシな見た目の短剣、実に普通の持ちやすいダガーを手にとって見た。

「これで行くかな」

 手に持つとしっくりくる。

「じいさん、名前はどうやったらみれるんだ?」


 完全に絨毯の上でくつろぎモードになっているじいさんは答えた。

「そうじゃった、メニュー画面を開いて装備一覧で確認するのじゃよ」

「メニュー画面?」


 するとセレンは右手を差し伸べてきた。

「ん?なんだ欲しいのか?」

「違う、握手」

「へ?」

 言われるがまま握手をすると青白い光の線が発生し、眼前にメニュー画面らしきものが出現した。

「これが、メニュー画面なのか?」

「そうじゃ、メニュー画面は握手によって開く事ができる」

「…いやいや、なんでそんな面倒な仕組みになってんだ?」

「そうじゃなー話すと長いぞ」

「いえ、いいです」

 そこにはステータス、アイテム、装備、マップ、フレンド、ガチャ《新春限定武器登場!》、オプションと書いてある。

「どう操作すればすればいいんだ…」

「それはな、左手で相手の胴体すーっとやるのじゃ」

 俺はセレンのお腹に指を近づけた。


 バシッ

 すかさずセレンの左手により跳ね除けられた。

「嘘つかないでください!」

「え、嘘?!」

「はっはっは!」

 騙されたのか。


「普通に左手で文字を触るだけだよ」

 そう言ってセレンは自分のメニューウィンドウの×印を押して閉じた。

「あと、もう右手離してもいいから」

 俺はずっと握りっぱなしだった右手を慌てて離した。

「ごめん」

「これって一人だとどうすればいいんだ?」

「一人では開けん、必要なのは他の人との握手じゃからな」

 やっぱり納得いかない、なんで左手の操作は簡便なのにと愚痴りそうになったが老人に説教されたくないのでやめた。


 俺はステータスのボタンを押し項目を確認した。

 HP、STR、VIT、INT、AGI、LUKとよくある表記のステータスが並んでいる。

 LVは… 0 ?

「俺、結構生きてきた気がするんだが、レベル0なのか?」

「私は、レベル7だよ?」

「はっ?なんで?!」

「それはな、なんらかの武術の心得があるんではないか?」

「実は私、剣道習ってたの、やめちゃったけど…」

「お嬢さんは魔剣士じゃからな、そこが考慮されたんじゃろ」

「俺は、俺には何か無かったのか?!」

 じいさんがLUK値に指を指す。

 LUK…これはラック、つまり運だ。

「LUKが0っていうのは相当珍しいぞ!」

「嬉しくない!!!」


 アイテムはさっきの装備品のみ、装備の欄の武器名を確認する。

《エエモンダガー》

 説明を見ると、ある行商人が「ええもんだが…いやなんでもねぇ」っといって渡してきた曰くつきの品。

 ダジャレかっ!!


 マップは、大聖堂神殿大広間とだけ書いており、地形の表示などは一切無い。

 フレンドは、いない。現実にもな。

 オプションは、振り向き感度がある。試しにバーを左に下げてみると、急激に首が動き難くなった、つかわなねー機能入れるな!


「そろそろ出発せい、わしは次の準備をしないとならんからな」

 これで一通りの説明は終わったようだ。


「じゃあパーティ組もうか!」

 セレンが握手を要求してくる。

「おう」

 ぴっぴっという軽快な音と共に手早く操作すると、俺のウィンドウに文字が表示される。

 フレンド申請が来ています、承認しますか、はい、いいえ。

 セレンはこっちを楽しそうに見ている。

 俺は無言ではいを押す。

「あとは左手も右手に添えて握手するの」

 なんだろう、大統領とかが同盟を組む時のような感じは。

「よろしくね!」

 どうしたらそんな無邪気な感覚で人と付き合えるのだろうか。

「よろしく」


 ふ菓子に遂に食らいつきそうになっていたアミュメェミィを見て、俺は《美味棒》を選んで"しまう"を選択した。するとフッと美味棒は消え去った。

「にゃ”----!!!!どこにいったにゃ?!」

「武器を一つ失うところだった…」

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