ツイてない俺が異世界転生したらこうなった

スプレ

第1話 どん底の向こう側


 俺は極平凡な社会人男性、付加賀実(ふかが みのる)。そんな俺でも話のネタになりそうな能力を持っている、それは世界一ツイてない能力である、最近流行の様々なスマートフォンゲームを遊んできたが、ガチャを回すと最低レアレティしか出たことがないのである。

 当然確定チケットなど絶対に出るシステムの場合は例外だが、これでもかというほどレア2、所謂☆2しか出ないのである。

 だが、今日こそは☆3が出るかもしれないと期待して、ゲームプレイをして集めたジュエルを消費してガチャを回す。


 夜のアクティブユーザーが少なくなった深夜3時、この幻影魔界都市戦記デュアルラは日付更新のタイミングに入る。更新の後すぐにガチャを回せば出るという都市伝説がネットでは散見される、だから出るはず、今日こそ決着を付けよう、俺の低運気よさようなら。

 スマホの画面には当たったら手に入るであろう、伝説のドラゴン"エクセリオン"が黄金色の眩い閃光を放って表示されている、11回ガチャを回す、俺はそのボタンを押す前に精神を統一する。巷では欲を出すと欲しいものが出ないという、無心になり悟りを開いたかのように、心は無の境地となりガチャを回すだけの世界の理となったように、指が少しずつガチャを回すと書いたボタンに近づいてゆく。

 他人から見たら完全な無表情、まったくどこを見ているかわからな焦点の定まらない目線、何が楽しくて遊んでいるのか問いたくなるだろう。

 徐々に、着実に11回回すを押した。俺はやっと無心を解いてもいいかと少し油断していた、確認画面が表示される事を忘れていた。もう一度深呼吸をして無心になり”本当に良いのですか”という文面に、はいのボタンを押し答えた。

 輝かしい閃光と共に11体の銀色のドラゴンとそれに跨った人々が勢いよく、空中を滑空していった。俺は絶望した、銀色はレアレティ2の証であるからだ。

 ...やはり俺には無理なのか、こんな楽しそうなゲームなのにガチャは俺に厳しいんだな。そう思っている最中、画面のドラゴンの内の一体が七色に突然輝いた、これは珍しい演出で低レアが超絶レアに化けた時の演出だ!

 俺は驚いて画面を凝視した、これはもう☆3以上が確定した証拠、運が向きだした証拠だった。

 手に汗を握り、脳裏にドラゴン"エクセリオン"がよぎる。

 行ける!行ってくれ俺に夢を見させてくれ!!

 次々に低レアドラゴンの登場演出が行われ、俺は次か次かと最高レアのドラゴンの登場の瞬間を目に焼きつけようと、生きてきた中で一番目を見開き、スクリーンショットに撮ろうとスマホの物理ボタンに手を掛けた、落ちてくる瞬間を写す!!

 11体目、これが確実だろうと電源スイッチとボリュームダウンの物理ボタンを挟み込むようにぎゅっと握り締めた!

 その瞬間だった、スマホが吹っ飛んだ。強く握り過ぎたのだ。


 どぽん


 変な音がした、水の中に落ちるようなそんな。

 我に返ると、俺はトイレに居た事を思い出す。


「あ、あれ~まさか、水に落ちたって事はないよなー」


 感情のこもっていない気の抜けた声を発した。

 トイレの便座を覗き込むとそこにはスマートフォンが沈んでいた。

 俺は慌てて便座の水に手を突っ込んだ!

 もしスマートフォンが故障すればデータは失われ、この奇跡のような出来事がなかった事になってしまう!

 それはつまり、引継ぎ用の設定をしていなかったからだ!


 水の中のスマートフォンを掴み、一気に引き上げようとしたところ、本体が重い。

 ものすごく重く便器に底に張り付いているのではと疑ってしまうほどだ。

 すると次の瞬間、みるみる便座の中の水が黒く濁っていく―――


「な、なんだこれ?!」

 仰天の最中、スマートフォンがより重く、引っ張られているような感覚になる。

「くそっ俺が、負けるわけねぇ!!」

 より一層強く引っ張ると、スマホを掴んでいる手首辺りにより強い引力を感じスマートフォンではなく、黒色の水底が自分を引きずり込もうとしている事に気がついた。


 ざばっ


 黒色の水面は光始め、それは勢いよく便座から飛び出し、俺の身体を包み込んだ。


「うぉおおおお?!」


 身体がさまざまな方向に引っ張られるような異様な感触と共に、勢い良く流されるような疾走感を覚えた。


 ―――


「起きろ、起きんか」

「うぅ、俺は死んだのか――」

 寝ぼけているのか意識が覚醒しない。


 ビシッビシッと顔面を平手で打たれるような感触で目を開けた。


 そこには、冠を被ったサンタクロースの様な白いひげを蓄えた体格のよい老人が立っていた。


「やっと起きたか、さっさと自己紹介をせんか!」


 俺は何が起きたのか分からずただ呆然と周りを見回した。

 そこは石造りの大広間で、目の前の老人以外に沢山の人々が取り囲むように俺を見ていた。


 俺はゆっくりと立ち上がった。


「どこだよ、ここ…」


 独り言だった、特に意味がある言葉ではなかった。

 老人の近くに居たメガネを掛けた秘書みたいな見た目きびしめな女性が、王に語りかけた、


「もう、どこだよここ、でいいんじゃないですか?」

「そうじゃな、お前の自己紹介文はどこだよ、ここ、で決まりじゃ」

 老人に指を指され、何かを納得した様子でうなずいている。

 横から現れた男性に促されるまま、壇上を下ろされ群衆の中に誘導された。


「では、次の者を召還する」

 老人は持っていた杖を上へ突き上げると、黒雲の渦が起こり、すこしすると輝き始め一際強い閃光が起こると共に渦の中から人影が落ちてきた。


「はにゃっ?!!」

 ドスンと尻餅を付いて女性が落ちてきた。

「わー?なんだにゃ?びっくりしたのにゃ?!」

 耳の生えたコスプレをした女性は立ち上がると楽しそうに周りを見渡している。


「君、自己紹介したまえ」

 老人が頷きながらそう促す。


「にゃん★↑私は猫族のアミュメェミィだにゃん!よろしくだにゃん!」

「うむ、よろしい」

「このまま採用しますね、アメェミュ…コホンッ!さんはその自己紹介でよいですか?」

「ぜんぜんおっけーにゃ!」


 突然群衆がざわめきだす。

「「「ひゅーひゅー!いいぞー!!かわいいぞー!!!」」」


 おい…どういうことかわかってんだろうか、何がおっけーなんだろうか、それに俺の時となんか盛り上がり方が違わないか。

 俺は隣の人に尋ねてみた

「すいません、これ、今何やってるんでしょうか?」

 これといって捉えどころのない地味な青年は答えた。

「え?えーと召還してるのかな?」

 ふむ、こいつわかってないな…となると、ここの全員は俺と同じ経緯で強制拉致された人々なのだろうか…。

「それより君、さっきずっと気絶したまま倒れてた人?」

「え?俺?」

「30分ぐらい倒れたままでさ、みんな生きてんのか心配してたぞ」


 まっまじ

「あ、ははそうなんですか、いやーあはは…」

 なんか笑ってごまかすしかない申し訳なさ、笑顔で頭を掻きながらすこしずつそいつと距離をとった。


「それでは次の者を召還する!」

 老人は杖を高く掲げるとまた黒煙の渦が発生する。

 冷静に状況を考えて見ると、俺はトイレから異世界に来てしまったのだろうか、運悪く老人が人を無差別に拉致する魔法らしきものに引っかかってしまったのだろうか、なんて迷惑な魔法なんだ、俺が最強の戦士ならこの状況を止めたほうがいいのではないだろうか。

 老人をよくよく見てみると頭に何か文字らしきものが浮かんでいる、レベル?7000?いやいや、なんで文字が浮かんでくるんだ変な飛蚊症にでも掛かったのか…、ここがファンタジーの世界ならありえるのか、いやいやそれより7000?!!俺のレベルは7000以上だったら止められる、これは掛けか?


 正義感が先立ったか、戦うと決まったわけじゃないと思ったか、俺は群衆を押しのけ壇上に駆け上がり声を上げた


「こんなことは間違ってる!!」


 だれもが俺に注目した、だが次の瞬間だった


「ヘブッ」

 俺は変な声を上げて地面に倒れこんだ。

 そして背中にやわらかい感触がする。生暖かくて少し湿った感触…


「キャアアアアア!!」

 背中に居るであろう人物が悲鳴を上げた、その人物はバスタオル一枚を身体に巻き大事そうに胸元で掴み、尻餅を付いたまま後方へ後ずさった。


「ななななななにこれ?!私、髪乾かしてたはずなのに?!」

 美しいロングの髪の毛、珠玉のような肌に見惚れていた俺の方を女性はキッっと睨み付けた。

「あ、あれ、いや、あのー、俺は違いますよ?」

 女性はそのまま怒鳴りつけた、

「この変態!こっち見んなバカアアアア!!!!」


 可笑しいな、俺、正義のヒーローになるはずだったんだけどな?

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