2. 真実の入り口

 涙が落ち着いた頃を見計らって、アルテミスは話を切り出した。

『……今、あなたの周りが大きく動き出していますの、ご存じ?』

『……どういうこと?』

 そして、アルテミスは語る。

 ジジがハウルの魂に呼びかけて、それが成功したこと。そのハウルの魂が、何かをしらの行動を起こそうとしていること。そしてクローディアを探し、ジジはさらなる行動をとっていること。

 それらを「ヒント」として、彼女はリースに問題を出す。

『わたくしが思うに、この話にはあるおとぎ話が関わっているんですの』

『……おとぎ話?』

 ええ、とアルテミスは笑う。

 その時、なぜかある話がピンときた。

『もしかして、「最初の魔女のおとぎ話」とか……?』

 言うと、ふふっと笑われた。

『やはり、繋がっているんですの、なんて』

 さて、と話を戻して。

『あなたは、あの話で何を感じまして?』

 それは、リースを試すような音だった。

 目の前の難題にしばし考えを巡らせる、そして。

『まず「不思議だ」と思ったの』

『何を不思議に?』

『……ええっと。……確か最後に「少年は」と書いてあったように覚えてるんだけど、だったらなんでタイトルは「最初の魔女」なのか、って。男の子なら魔法使いのはずなのに』

『……そう。なら、「どう思ったのか」は?』

 うーん、と考え思いだす。

『何が、とは分からないけれど、それでも?』

『続けてよくてよ』

『……すごく、「気になった」の。何か、引っ掛かる感じがしたというか……』

 そこまで言うと、アルテミスの笑みが変わったように見えた。そして、深い息をしてから彼女は言った。

『ずっと、ずぅっと昔に、私もそう思ったの。同じですのね』

『え、同じ?』

 思いもしなかった言葉に、リースは金の目を丸くする。

ふふっとアルテミスは銀の目を笑わせ、別の話を切り出す。

『どうしてディアは、「時の流れを緩める能力」を持っているかわかるかしら?』

『……考えたこともない』

 そうでしょうねと、また笑う。

 そしてついに、答えを引き出してくる


『――それはね、「最初の魔女」が望み求めた力だから、なのですわ』


『……え』

 キョトンとするリースに、答えは更に落ちてくる。

『最初の魔女は思ったの、自分に時を操る力があればどんなに良かったか、なんて愚かなことを』

 そうすれば、転生についても操れたかもしれない。と。

『けれど、ディアは言ってたの、時を操っても、そんなやり方では虚しいだけ、ですって』

『…………』

『わたくしたち「猫の魂」と、ディアとハウルの「元々の魂」は、出会うべくして出会ったのかもしれないですわね』

『…………』

 正直よくわからない、はずなのに。頭の中の何かが「だからなのか」という答えを出してくる。

 リースの気持ちと魂の反応が、ぶつかりあうのだ。そんなリースを見て、アルテミスは。

『……そうですわね。一つ、昔話をして差し上げましょうか、――ずっと前の、お話を』

 ――それは、おとぎ話の真実だった。

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