8. 夢の中のだれか

 ――声がする。

『……ル、……ウ……』

 だれだろう。必死な声だ。

 誰を、呼んでいるんだろう。

『――ハウル、……――から、――起きてくれんか』

 目を開けられない、なぜだろう。呼ばれているような気がする。

 ――もう、大切な人がいなくなるのは嫌なんじゃろう!?



 ――バサッと、ジルは勢いよく起き上がる。なぜだか腕が重い。

 重さをたどるど、レファの足があった。どうりで重いわけだ。

「……また、もう……。寝相が悪いんだから」

 そのわりに。なんでこんなに勢いのよい起き方をしたのだったか。

 ふと、手元に一冊の書物があった。どうやらレファは、これに読み疲れたのか。

「……最初の魔女のおとぎ話……か」

 なるほど確かに。興味は惹かれるが、おそらく行動派のレファからしたら、難しそうだなと思う。

 だが、興味の意味ではジルも同じかもしれない。本を手にとる。

 あの、「森にいるちょっと不思議なお姉さん」を思いださずにはいられない。

 だが、中々に難しそうな上に、ややこしい気がする。

それでも読み進めていくと、文末の、ある言葉が目にとまった。

 ――いつか必ず、友とまた語ろう――

 その言葉を見た、瞬間。

「――……っ?」

 ドクン、心臓が音をたてたのが分かる。そんな感覚とともに。

 とてつもなく、苦しい。息ができない。頭が痛い。手が震える。

だんだん、目の前が霞んできた。

「……は、……っは……」

 意識が薄れそうになった、その時。


――きみは、彼女じゃない。

――「ごきげんよう。ハウル。いつの日か、また会いましょう。」

――アルテミスときみは、やっぱり似てない。きみは、弱い。

――僕はもう、大切なひとが目の前からいなくなるのは、御免なんだ――


 そんな、たくさんの言葉と感情が、頭の内をかけめぐる。

 それは、「今の」自分ではない、どこかの、いつかの自分。

「はっぁ……はぁ……はぁ……」

 でも、覚えている。その理解は、一瞬でのことだった。同じ魂の、二人の感情が共鳴する。

 ……だからといって、どうすればいい? ここから抜け出す――否。

 ――この世界を「破く」ためには。

 


 そうしてここから、密やかな彼の「企み」が、はじまっていく。

 ――すべては、その声の鎖を千切るために。

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