6. 人間の精霊使い

「……」

「……」

 なんとも言えない額の痛みが片方。

 初めての「魔女」との対面での硬直が片方。

 先に言葉を紡いだのは、活発そうな眼の少年だった。

「あ、の……。その、悪かった! ごめん、魔女のねーちゃん!」

 それに続き。

「すみませんでした! あの、まさかすぐ目の前にいるとはぼくも思ってなくて……」

「……ああ、うん」

 一人暮らしが、あまりにも長すぎたせいか、なんといえばいいのかも、わからないリースだった。加えて二人が、あまり怯えているようでもないので、この場合はなにを言うのがいいのかも測りかねる。

「どこをぶつけたんですか? すごい音でしたけど」

 言葉の代わりに、額に触れると。

「うわ、ほんとに赤くなってる…。ごめんな、魔女のねーちゃん」

「……あ、そうだ。ちょっといいですか」

新緑の眼の少年に、手を引っ張られるままに、しゃがむと。

「……ええっと。――すいの精霊、このひとの『痛み』を流してくれる? さあ、……――いま!」

 ――驚いた。

 この少年、精霊に「お願い」が通じるのか。そういった存在は、クローディアやジジからも聞いたことがあるが。

 まさか、こんな小さな、人間の子どもが。

 さらに。

「あ……。えっと、そうだ! ――もくの精霊、このねーちゃんの『傷』閉じこめられるか? ――いけ!」

「え……」

 まさか、と額に手を当てる。と。

 精霊の「水」の力で、痛みを流して。さらに次は「木」の精霊の再生力で、傷を回復。

 まさかまさかの、人間の精霊使い。ということなのか。

「……あ、ありがとう……?」

 ひとまず、礼を忘れてはいけない。しかし。それが正しいのかは、自信がなかったのだが。

「……! いや、元はといえばおれだし。上手くいって、よかった! 悪かったな、ねーちゃん」

「どういたしまして。でもほんとに、レファのせいで、すみませんでした」

 ――それが、レファとジルとの出会い。



 その出逢いは、「はじまり」か、はたまた「終わり」なのか。

 どちらにしろ。この出逢い方は、お偉方にとっては想定外だっただろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る