5. 150年ぶりの

「ねえ、やめておこうよ。レファ」

「何言ってるんだよ。ここまで来たら、最後まで行かないでどうする! ほんとはジルも、気になるだろう?」

 予想通り、子どもだった。

 ドア越しに、ふわふわとした栗色の髪と、まっすぐに流れる新緑色の髪が、風にゆれている。

 おそらく、「怖いもの見たさ」というやつか。

 


 リースはある時「魔女」として、森の近辺にある二つの国に、こんな脅しをかけた。

「――我は人喰いの魔女よ。あの森へ来ることは、我に喰われに来ることと、思うがいい――」

 そう告げて、できる限り「残忍そうな」嘲笑い方をした、……つもりなのだが。



「だいたい、150年近く前に脅してから、今まで一度だって悪さのない魔女が、そんな怖い奴か?」

「……まあ、ぼくもそうは思うけど。『魔女』がみんな、『悪い奴』だとは限らないし。……って、勝手に開けたら――」

 話を聞いて、子どもにしては賢いなあ、なんてのんびり思っていたら。

 ――ゴツン。と。

 勢いよく、玄関の扉が開き。目の前にいたせいで、思いっきり額にぶつかった。反動でよろける。

「う……、い……」

 それこそ、150年近く独りでいたリースは、まともに「痛い」とも声にならなかったのだが。

「……え……?」

「う? ……わあぁ。真っ白」

 いまの問題は、そこではない。二人の子どもと、向き合う形となったほうだ。

 片方。ふわふわとした、柔らかそうな毛質の、栗色の髪に。勝気そうな林檎色の眼をした、少年。

 片方。真っ直ぐで、さらさらとした、明るめな新緑の髪で。落ち着きのある深い緑色の眼の、少年。

 あちらこちら、対照的なぐあいの少年たちだ。



 ――この出会いが、とある人物の願いであったと、誰が想像できただろう。

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