2. 淡い「賭け」

 リースを見失って、探し続けるうちに、ジジは、自身の記憶が、あまりにもちぐはぐとした、あてのないものだと、気付く。

 確信は。

『千日魔女クローディアを、あなたの主を、覚えていないんですか』

 いつぞやの、リースの言葉。

 ――千日魔女、クローディア。

 ――……ディア様。

 何かを思い出したとかでは、決してない。身に覚えはないはずだ。なのに。

 「頭」ではなく、「体」が、その身がおぼえているのだ、「ディア様」というひとを。

 ――自分の、本当の主を、「記憶操作」なんぞやで、そう簡単に全部忘れるものか。



 ――八十八年の時のなか。

 もう、リースを責めるものはいなくなった。それでも。彼女はきっと今も、自分を責めているのだろう。

 そんなリースについては、噂一つ立っていない。

 彼女は、「人」のころからもう罪を背負って生きている。そして、ひとのぬくもりを、あまり知らない。そんな彼女に、これ以上何を背負わせられるか。

「…………まさか」

 その、重なりし「罪」を背負わせることが、「お偉方」の狙いだとしたら?

 考えられなくもない。彼らには、「そういう」思考を持つものがいる。狂ったあそびを、好むものが。

 どうすればいい? どうすれば、この状況を打開できる?

 ふと、脳裏を過ぎった、大胆な発想。

「……。賭けて、みるとしようかのう」

 リースを見つけられる自信はない。なら、ダメ元でも。「そちら」に、賭けにでてみようではないか。

 


 ――二百年が経った、ある時。

 とある大陸の、人のこない森のなかで。彼女はひっそりと、一人ぼっちで生きていた。

 そんな、ある日のこと。

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