14. 罪を

 ――カイの身体が、魔物へと化した。

 「それ」は、集落中を、祭りの会場までを、踏み荒らした。原形を留めることすらなく、めちゃくちゃに、「すべて」を。

 「それ」は、ひとへ攻撃をすることはなく、ただがむしゃらに、皆が準備したものも、そこまでの「想い」も、すべて。

 そうして、壊した終いには、自分の喉を掻き切った。

 その体が、ゆっくりと元の、――血まみれのカイの姿へと戻っていくのは、とても見られたものではない。

 けれど、リースは「見なければいけない」のだ。

 ――千年の断罪。

 この状況が「それ」だというのだろう。

「…………っ…………、カ、イっ……。カイっ!」

 その体に、サナが縋りついた。


 じっと、それをぼぅっとした頭で見ていたら。

「……なに、これ……。あなたの、せいなの……? あなたが、カイを……?」

 ――リースには、何を言う資格もない。

「誰なの、『ハウル』って。……一度目の断罪って、なんのことを言ってたの……?」

 否、何も言えない。ただ。

「……ごめんなさい、サナさんも、皆さんも。……ごめんなさい……」

「……っ!」

 ――バチン、と、頬を引っぱたかれた。

 頬の痛みなんて、なんてことはない。それよりも。

「ご、めんなさい、サナさん」

「……説明してよ、なんでカイなの? 何の『断罪』なわけ? ……『ハウル』って、誰なの? ねぇ!」

 カイを、今まで見ていた彼女達の方が、ずっと深く、傷ついているのだろう。リースの頬の痛みなんて、なんてことはない。

 ――だって、リースはもう、人だったころに罪を犯しているのだから。村を、母を、――すべてを「灰」にしてしまっている。

 いまさら、その罪が増えたからって、それに対してリースが苦しむ資格なんて、どこにあるというのだろう。

「……サナ、もうやめよう」

 誰より明るかったカーバスは、低い声で、唸るように、サナを止めた。

「……灰色魔女、リース。お願いだ。――二度と、ここに来ないでくれ。僕らはもう、あんたを見たくないんだ」

 ……当たり前の、ことだ。我が子が目の前でこんなふうになったのだから。恨むな、というほうが難しいだろう。

「……はい。本当に、ごめんなさい」

 そのとき。

「……リースよ……」

「……すみません、ジジ。ごめんなさい。……もう、私からは離れたほうがいいのでしょうね」

「あ……待たれよ、リースっ!」

 リースは、追いかけようとしてくれるジジを撒いて、一人で、全力でその場を後にした。



 それは、リースが魔女になってから、十二年が経ってのことだった。

 それから更に八十八年間。その中で灰色魔女を見かけた者はいない。



 ――リースが魔女になって、百年が経った。

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