13. 最初の「終わり」は

 カイはすっかり、リースに懐いた。会えば笑顔を向けてくる様は、まるで子犬のようにも思える。

 リースはリースで、数日後に行われる豊然祭の準備の手伝いなどをしているうちに、集落のものたちとも打ち解けていった。

 そうして。



「リースちゃん! ありがとうね、いろいろ手伝ってくれて」

 突然、後ろから思いっきりサナに抱きつかれる。すると。

「あー! 母さまずるい、ぼくもぼくも!」

 前方にいたカイに、これまた抱きつかれる。その様子を見る、周りの目の和やかなこと。

 そうして、両脇をサナとカイに挟まれれば。

「おやおや、うちの家族を取りますか。妬けるねえ」

「おんや、いつの間にやら」 

頭上からは、カーバスの声に、ジジの呑気な呟き。

「……なんなんですか、皆さん揃って」

 嬉しいような、でも少し困るような、あたたかい気持ちになる。

「あ、ねえ、リースねぇちゃん。ぼく最近ね、ねぇちゃんがでてくる夢を見るんだよ!」

「え、えぇっ?」

 驚く。まさかそこまで懐かれているのか。

「でもね、ねぇちゃんいつも、『ハウルさん』って、ぼくのこと呼ぶんだ。なんでだろ?」

 ――?

 どういうことなのか、聞こうとした、その時。

【――ときは来たれり】

 「音」が頭に響いた。

 ――久方ぶりに聞いた、「天」からの声だ。

【灰色魔女よ、よく聞くがよい。今より、一度目の「断罪」を与えようぞ】

 ――断罪。

 クローディアを最後に見たときにも、聞いた言葉だ。

 そのときのリースはまだ、これから起こることを、――起こり続ける断罪を、知らなかった。

「うっ、ぐ、あ……っ?」

 変化は、となりで起きた。カイだ。

「カイ? どうし――」

『リース』

 ――?

 カイの「口」から、ハウルの「声」がでてきた。気のせいかと、一瞬思うが。

『リース……はやく……』

「……ハウル、さん……?」

『はやく、みんなを……みんなを……っ!』

「僕から、離して」

 ――その突如。

「う、ぐっ……っ! あ、ヴぅ、……ぐぅぁぁあああっ!!!!」

 カイの身体が、一瞬ハウルになり、そして。



 ――魔物へと、変化した。

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