10. 明かせないこと

 この頃、ちょうどこの集落では、自然の恵みへの感謝の祭り――豊然祭という、ささやかな祭りごとの準備の真っ最中だった。市場と両立ゆえ、猫の手も借りたい、という忙しさだ。

 そんな、最中に。



「あ、リースちゃん! ちょうどいいところに」

 親しげな呼ばれ方で、相手が誰だか振り向かなくともわかる。

 リースより何百倍も生きる、魔女を引退し、精霊と恋に落ち、子も授かった女性。

 サナだ。

栗色の髪をなびかせながら、リースに人のいい笑みを向けてくる。

「……あの、サナさん。やっぱりその『ちゃん』と言うのは」

 リースは、呼び捨てにばかり慣れていたせいか、「ちゃん」付けがなんだかこそばゆい。何度もそう言うのだが。

「えー? あたいからしたら、まだまだ赤ん坊よ。まあ、そろそろ見た目は大人らしくなってきてるけど」

 魔女の見た目というのは、その者の「個性」を現すのだという。今のリースの場合は、大人と子どもの境目、といったところか。

「……それで、あの、なにかご用が?」

「あっと、そうだったわ。カイを見なかった?」

 またか、とリースはため息。

「また、いなくなったんですか?」

 こくん、と頷かれる。

「リースちゃん、あれを見つけるのすごく早いから。面倒だろうけど、また頼める?」

「面倒、ってほどではないですから。いいですよ」

 途端、彼女は安堵の笑みを浮かべた。やはり、どう言っても、心配なものは心配なのだろう。一人息子なのだし、生まれてあまり日が経っている、というほどでもなし。

「見つけたら、連れてきますか?」

「ええ、お願い。……ところで、あのね……」

「はい?」

「怒らないで聞いてね? ……どうしてアンタは、そんなに自信満々に、いつもあの子を見つけられるの? あたいにも、カーバスにだって、そこまでの自信はないのに」

 ……自信満々。そう見えるのか、自分は。けれど、それは当たり前というか、仕方無いというか。

 けれど、そのままを言うわけにもいかないので。

「……私、昔から勘がいいので」

 自信満々に、笑ってみせた。

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