8. 忘れていたこと
カーバスの案内を受けていた途中に、ふと彼は、人混みの中を走る少年に笑みを浮かべた。
ついで。
「おや? カイ! 一人で来たのか!」
その視線に、何とはなしに振り向くと。
「え? …………!? ……あなた、は……」
リースは、「彼」を見て、言葉を失った。
少年の、深緑の輝く瞳も。赤とも、茶とも見える髪も。
――ハウルの、持っていた色だ。
リースに凝視されていることには気付くことなく、少年は勢いよくカーバス目掛けてタックルしてきた。
「父さまー! お弁当ー!」
「おう? カイが持って来てくれたのか! ありがとうな、重かったろう」
呆然と立ち尽くすリースに、少年――カイは笑いかけた。
「こんにちは、お姉さん」
「…………」
どうなっているというのだろう。カイの顔立ちは、まるでハウルが子どもになったように、すごく似ている。
「……お姉さん?」
「リース? どうしたのじゃ」
みなの声に、はっとする。
「えっと……。こんにちは。カイ、くん?」
「うん。リースさん!」
誤魔化すように、リースも表情を崩した。
「……なんじゃと?」
「……カイ、という精霊はハウルさんに似てるんです」
「うむ……」
「信じなくともいいですけど。本当に、よく似てるんです」
「リース……?」
――嘘。本当は、自分の言うことを信じてほしい。
けれど、「ハウル」を忘れているジジに、信じてもらえる自信はない。
そんな風に思っていたら。
「お主はどうして、そう極端なんじゃ? 『信じてない』なんぞ、いつ言った?」
「……え? だって、あなたはハウルさんを覚えてはいないのだし……」
「それは、確かに覚えていない。じゃが、お主がそんな辛い顔して、嘘をついているようには、わしには到底思えん」
「……辛い顔」
――なんで、あんたはそう信じないの。もっと、あんたを信じてる私らを、信用しなさいよ。
「あ……」
よく、クローディアはリースに言い聞かせていた。彼女らの「リースを信じる気持ち」を、分かれ、と。
――そうだ。
彼らはいつも、どんな時もリースについていてくれて、リースを信頼してくれていた。
クローディアがいなくとも、リースは「灰色魔女」であり、ここが今の彼女の居場所なのだ。
忘れていたことを、また千を生きたひとの手に、教えられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます