5. 問うてきたものを

 クローディアは、実のところはリースに何を「教えた」でもない。リースの魔女としての知識は、十年分の魔女修行での経験と、書物が大半を占める。

 スパルタな師は、リースにいつも、「自力で考える」ことの大切さを問うてきた。それに対し、リースは行動することで、問いに応えてきていた。

 そんなやり取りをしてきたせいか、今も頭のどこかでは、冷静に、「今何をするべきか」を考えていた。



「……リースよ、いつもながら」

「はい?」

「マントの背中側が捲れておるぞ」

 ――まずは、情報収集をしよう。

 そう考え、いつかのように白髪をマントで隠して、町へ赴こうとした、矢先に。

『 マントの背中側が捲れて白い髪が見えるのは、いいの? 』

 そういえば、かなり前に、誰かに似たようなことを言われたと、思いだす。

『ツヤツヤした白髪なんて、目立ちまくりよ』

 彼女にも、しょっちゅう言われていた。

 ――?

「いつもながら、とは?」

 リースの記憶では、そう何度もジジから言われた覚えはないはずだ。

「――? そうじゃったな。言葉のあやかのう。………いや、しかし……」

 ジジはなにやら、どうにも煮え切らない態度をとる。珍しい。なんて思っていたら。

「――そうか、このことか!」

「どうしたんです? さっきから」

 すると、ジジは神妙な面持ちで、こう言った。

「リースよ。ほんの少しではあるが、確かにわしの中にも、クローディア様はいるようじゃ」

「え……?」

「もっと言えば、お偉方の記憶操作には、綻びがあるのかもしれん」

 いまいち、ジジの言いたい話が掴めない。説明を求めた。

 すると。

「今、わしは少しじゃが、黒い髪をした、紅い目の女性を思い出したぞ」

 それは、クローディアの容姿そのものだ。

 けれど。

「彼女ととわしは、親しかったようだが、その中身は思い出せないのじゃ」

「思い出せない?」

「モヤがかかっていて、掴めないのじゃ」

 それでも、収穫だ。

「もっと、思い出してくださいね。あなたの本当の、敬愛してる主を」

 お偉方の記憶操作は、完全ではない。きっと、アラがあるはずだ。そこを突いていけば、もしかしたら。

 そう思い、リースは自分を奮い立たせる。

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