3. 試されしもの

『消そう、消そう。あのこの、跡を』

『欠片も残さず、消して……』

 彼らは考えた。とても残酷な、断罪を。

『――かけらを、残そう。あの魔女だけに』

『あのこを取った、忌まわしい魔女に』

 ――どこまで、耐えられるだろうか、と。

 彼らは嘲笑った。



 リースの目の前には、クローディアがいた。何かを、言いたそうに。

 だんだん、視界がぼやける。――夢、だからだ。

 そう思った、直後。

「――リース、起きなさい! いつまで寝てる気じゃ!」

「……っ!」

 ジジの――クローディアの精霊の声に、勢いよく起き上がる。

「……すみません、ジジ」

「おぬしが寝坊とは、珍しいのう」

 ――ふと、クローディアの夢を思いだす。

「ディアやハウルさんも、起きたんですか?」

 何気ない質問のつもりだった。なのに。

「……? それは誰のことじゃ?」

「え、誰って――」

 ふと、部屋に違和感を感じた。

 内装は、リースの部屋だ。だが、何か違う。

「……?」

 ベッドから降りて、扉を開ける。するとなぜか、リースの部屋の扉が隣にある。

 つまりは。

「――ここは、ディアの部屋……?」

 何か、なんだかものすごく、嫌な予感がする。

「リース? どうしたのじゃ」

「――ジジ! この家には、私とあなたのほかに、ひとはいますか?」

 リースにとったら、当たり前なこと。だが、何かがおかしい中で、確かめなければいけないような気がする。

「うむ……? 何を当たり前なことをいうんじゃ」

「あたり、まえ……」

 いま、何が起こっているというのか。

「……っ、千日魔女クローディアを、あなたの主を、覚えていないんですか……!?」

「うむ……? それは、最近でてきたお偉方の名じゃが」

「…………え?」

 ――クローディアが、お偉方……?

『 ――記憶を落とせ、大樹の者よ。記憶を拾え、灰色魔女よ。――自らの神と崇めさん我らがこのもとに、千年の断罪を与えん―― 』

 ふと、蘇る記憶。

「ま、さか――」

 ――自らの神と崇めさん我らがこのもとに。

 それが、クローディアだというなら。

「…………ディアが、神に……?」

 脱力する。

 まだ、頭が混乱するが、ふたつだけ、はっきりしていることがある。

 ――ここに、クローディアはいない。

 そして、ハウルの行方もわからない。

「……うむ? 何やら、詳しい話を聞く必要がありそうじゃの」



 ――このときは、まだ知らなかった。

 「千年の断罪」の、真の意味を。

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