2. 奪われしもの

 ずっと昔。クローディアは、アルテミスに誘われて、花畑に来たことがある。

『……アルテ、その花冠をどうするつもりよ』

『え? もちろん、あなたへの贈りものでしてよ?』

『私より、あんたのほうが似合うわよ』

『あら、そんな強情なことをいうものではなくてよ? ――はい、どうぞお受けになって』

『だから私は似合わな――』

『似合う似合わないではなくてよ。……もっと、ディアは素直になると可愛げもあるのに。素直にかわいいものを、求めなさいな』

『……でも』


 ――わかりましたから、そんな不安げな顔をしないで。

 


 そう言ったのは、だれだったのか。

 そもそも、今の自分は――だれなのか。

 そうして、クローディアは、自身の名も、大切なひとたちのことも、忘れていくのだ。

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