8. 断罪の始まり

二人の様子を、影からこっそり見守っていたクローディアとジジは、安堵と、何かの違和感を感じていた。

「……どう思う?」

「あれほどまでしょぼくれたリースを、いつもなら、精霊たちが放っておくとは、考えずらいですな」

 リースを慕う、無邪気な彼らだ。「普通」なら、ハウルより先に、リースに声をかけていてもおかしくない。

 だが――。

「それに何より、先ほどから彼らの気配が、全く感じられませんね」

「ええ。……なにかおかしいわ」

 その時だった。


【――ときは来たれり】


 その声の種類は、「天」からクローディア宛てに依頼がかかる時のと同じ、はずだ。

 どこか、その機械的な声に、弾みがかかっているように思えるのは、気のせいか。

 けれど、事は、クローディアの思いもしない方向へと向かってしまうのだった。

【月の女神の名を継ぎしものと、大樹から生まれしものよ】

 それは明らかに、リースとハウルのことだった。

「な、に……?」

 クローディアとジジだけではなく、リースらにも聞こえるようで、困惑するリースと、彼女を守るように肩を抱くハウル。

声は、機械的に、けれどどこか弾みをつけて。


【――今宵より、いにしえの神の名の下、千の時をもって、罰を下さん】


  ――いにしえの神。

 クローディアは、「彼女」を知っていた。

「……やはり、きたか」

ハウルは、何かを知っているように呟く。前々から、この世界について、よく知っている素振りはあった。が、「やはり」とはなぜか。

 ふいに、ノイズのような音がした。

【――千日魔女よ。もとはそなただが、今は眠るがよい】

(もと? ……まさか――)

待ったは、利かなかった。

そうして、後に知ることとなる。リースとハウルに与えられた「千年の断罪」を。

 そして自身の、真の名を。

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