6. 優しさと寂しさ
なんとかハウルの前では、涙は堪えられた。
近くの泉まで歩いて、泉を覗き込む。
「……くしゃくしゃな顔」
ぽつりと呟いた声は、掠れている。
――わかっていた、ことだったのに。
ハウルがそばにいるのは、「アルテミスの生まれ変わりのリース」であって、「灰色魔女のリース」ではないと。
ハウルに、そのつもりはなくても、きっと、いつもどこかで、アルテミスとリースを、比べているのだろう。
「……ちょっと、自惚れてたかな」
この十年のなかで、少しくらいは、リース単体を見てくれるようになったかと、思っていた。
けれどそれは、思い違いだったと、先ほど思った。
比べられることが、自分を見ているのではないということが、これほど辛く、寂しいことだとは思わなかった。
そんな気持ちのまま、ハウルと契約なんて、できない。
たぶん、ここまで苦しいのは、ハウルたちが優しいからだ。
「人」だったころは、母以外の人間からは「敵意」しか向けられない日々だった。母以外からの「優しさ」なんて、知らなかった。
魔女になってからの修行の日々は、それまでの日々とは全く違った。
クローディアは、口調などは厳しいところがあるが、どこかリースに甘いところがある。ジジは、とことん甘やかしてくれる。ハウルも、見守って、微笑んでくれる。精霊を「使役」しないリースに対して、精霊たちは無邪気に集まって、遊びを教えてくれる。
「……どうして」
転生するなら、なぜ、最初から魔のものにならなかったのか。なぜ、中途半端に、眼に魔の色をつけただけだったのか。
もう、何もかもわからない。「お偉方」の思惑も、ハウルの考えも。
――自分の、気持ちも。
少し頭を冷やしたい。そして目の前には泉。
「……ちょうど、いいかな」
リースは、――泉に飛び込んだ。
彼女は、あまり考えていなかった。冬の水に浸かることが、どんなに命知らずなことか。
「――リース!」
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