5. 思い違い

 夕食後、ハウルは頃合いを見計らって、リースを呼び止めた。

「……契約の儀式、しない?」

「……はい?」

 自分でも、単刀直入だとは思うが、まどろっこしいことは面倒だ。

「……ディア、ですよね」

「否定はしない」

 ハウルは、思ってもみなかったのだ。リースが「イエス」以外の回答をするなど。

「……理由は?」

「え?」

「……「今度こそ守りたい」とかですか?」

「……まあ、そんな感じ」

 身長差のせいなのか、リースの表情が見えない。

 少し、間を置いて、リースが口を開いた。

「いやだ、と言ったら?」

「…………え」

 なんで、と思った。リースにとっても、いい話だろうと提案したのに、と。

「あなたは、アルテミスを、守りたかったのですよね?」

「……?」

「申し訳ありませんが、私は、灰色魔女のリースです」

 ハウルは、わからなかった。リースの言いたいことが。

「でも、魂は同じだろう?」

 ハウルからしたら、アルテミスとリースは、似ていないが、違うわけではないのだ。

「私には、「アルテミス」の記憶なんて、関係ないんです」

 ――関係ない。その言葉に、悲しみを覚えた。

「どうして、そう言うの。きみにはそうでも、僕にとっては、大事な時間だ」

「……そうでしょうね」

 心なしか、リースの声が掠れて聞こえる。

「……リース?」

「――ごめんなさい。あなたと契約は、できません」

「……え」

 そう言い、リースは歩きだしてしまった。

 あとに残されたハウルは、放心状態だ。

「…………」

 そこへ。

「あんた、バカなの!?」

 全てを見ていたクローディアが、怒りの形相で詰め寄る。

「なんで、あんな言い方しかできないの!? あれじゃリースが、まるでアルテの身代わりみたいじゃないの! ……ああもう! こうなるなら言うんじゃなかったかしら」

「身代わり、なんて……」

「なら、似たようなこと言ってあげるわ」


「――本当は昔のハウルがいいけど、無理だから、今のあんたを代わりにそばに置いてあげる」


「なっ……」

「あんた、あの子になんて言った?「魂は同じだろう?」……ふざけないで!」

「……っ!」

「しかも、アルテとの時間が大事だっていうなら、リースとの時間は、なんだっていうのよ!? まるでそれこそ、「アルテミスの代わり」にしか聞こえないわ」

「……それ、は」

「――泣いてたわ、あの子。あんたの言葉で」

「……!」

 それを聞いて、思わずリースが消えた方向へ駆け出していた。


 ――今度こそちゃんと、リースだけを見なさいよ。

 事が収まったら、ちゃんとクローディアに礼をすることを、心のなかに誓って。

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