11. 闇から守るは

――夜の闇の、その空間が。突如揺らめいた。

「なんだ?」

「なにが、おきた」

 闇は焦る。冷静に、焦る。

「――ごきげんよう」

 すぅっと、氷の刃のような声が、侵入者の訪れを告げる。氷の内側に、殺気を込めた、刃だ。

 彼の訪れに、闇は焦る。冷静さはない。

「何者か、そなたは!」

「なぜ、ここにいる!?」

 彼は、それには答えない。ただただ、殺気を込めた声で、闇に問いかける。

「その子は、まだそれを知る時ではない。何より、その子の意思じゃないだろう?」

 闇は、言葉に詰まる。そして。

「ごきげんよう」

 最初と同じ言葉を合図に、夜の闇から、彼はリースを引き離した。



 深緑の瞳の内側で、どうして、と自問自答する。

 初めてリースと出会った時、確かに思い、言葉にすらした。

 ――もう二度と、会えなければいいのに。

 「彼女」を知っているから?

 リースが、彼女よりずっと、危なっかしいから?

 ――違う。

(彼女の、面影を追って? まさか)

 彼女とリースは、きっと似てない。見た目も中身も。彼女はもっと、警戒心を持っていた。精霊らとも、適度な関係を保っていた。

 違いはしない。だが、似てない。

 背中の体温は、彼女より温かい気がする。彼女よりも、軽い。

(……そもそも)

 どうして、自分は彼女とリースを、比べられる? 比べるには、まだ早いだろう。

 そこまで考えて、ああ、と納得する。

(……「きみ」を、知りたいのか)

 まずは、リースが目覚めた時に、このままだったら、どんな反応をしてくれるだろう。

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