8. 役割

 ずっと昔、この世界の支配者は、とある魂に、とある呪いをかけた。

 ――世界一、残酷な魔法を。



 クローディアは、とてつもなく不機嫌になる。

 それもそのはず。いきなり、断れない大きな依頼が入ったのだ。リースの魔女修行中だというのに。

 依頼者は、「天」のお偉方だ。断れば、もっと面倒なことになる。腹を括るしかない。

「いい? リース。もし私からの遣いがきた、なんて言われても、絶対に聞き入れたりしちゃ駄目よ。そんなアホなこと、私は絶対にしないから!」

「アホ、なんですか……」

 どういう意味かはわからないが、とにかくとてつもなく不機嫌で、不安げな師匠の言葉には、頷いておく。

「用件があれば、私かジジが行くわ。だいたい、修行中の魔女に何をさせるっていうのよ」

「まあ、そうですね。……わかりましたから、そんな不安げな顔しないで。ね?」

 そう言うと、クローディアは更に不安げな――普通に見ると不機嫌そうな顔をする。

「……べつに。素直に怖い顔だって、言えばいいじゃない」

 つい、睨むようになっているクローディアに、リースは少しも怯まない。それどころか。

「まあ、怖くも見えますけど。私を心配してくれているのでしょう?」

「……は?」

 思いもよらない言葉に、クローディアは一瞬唖然とする。一拍おいて、なぜか狼狽する。耳が赤い。

 どうしたのだろうと思っていたら、ふいにジジがでてきた。心なしか、いつにもまして、楽しげだ。

「お取り込み中、失礼ですが。ディア様、そろそろ」

 ハッとして、咳を一つ。

「……行ってくるわ」

「行ってらっしゃい。気をつけて」

 クローディアの耳が赤くなるのは、図星をさされた時の反応であることに、リースが気づくのは、もう少し先の話。

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