6. 魂

 青年と出会った夜、クローディアは、リースに不思議なことを聞いてきた。

「……あんたは、今の記憶しかない?」

「……は?」

 なんのことだ、と聞き返そうとしたら、クローディアは勝手に納得したように、ひらひらと手を振る。

「なんでもないわ。気にしないで」

「……ディア?」

「寝なさい。おやすみ」

 などと言って、部屋をでてしまった。

 クローディアは、話そうと思った時にしか、話さない。言う気がなければ、とことん喋らない。

 だから、追いかけても無駄だと判断して、ベッドに入ったリースだった。



 夜風に吹かれながら、屋根で自分のお目付役を呼んだ。

「昼間のこと、どう思う?」

「その前に。屋根に登るのは、淑女にあるまじきことかと」

「魔女は夜風を好むものなのよ」

 クローディアの屋根登りは、今に始まったことではない。ちょっとした軽口だ。

「……そうですなあ。リースは、生まれ変わる前の記憶はない様子。あの青年は、おそらく大樹から生まれた精霊でしょう」

「……なるほどね。大樹なら、時は長いほうよね。……あ、けど。あのこ、一瞬だけど前の記憶と共鳴したわよね」

「ええ。それだけ、前の意識が強く残っているのではないかと」

「……それって、危なくない? リースが意識に呑まれたら」

 話しながらジジがふいに、とてつもなくやわらかな目をした。

 クローディアは、あまり自分のことには無頓着だ。今も、屋根に登っている姿を誰かに見られても、さほど気にはしないだろう。

 

 「千日魔女」の由来の争いの時も、そうだった。あれは、結果的に良い方向に向かっただけで、実際は、第三者の介入など、敵を増やすことに繋がる。

 

 なんとなく、自分の命をないがしろにしているように見えて、ジジはそれが悲しく、悔しかった。

 けれど、目の前のクローディアは、己はともかく、弟子の身を案じている。だから、ジジは少し悔しく思うと同時に、嬉しかった。

「……ともかく、今は警戒するに留めておきましょう」

 

 ――いつかリースの存在が、クローディアが生に執着する理由になれば。

 所詮自分は、「契約」で結ばれているだけの存在だから。

 そんな事を聞いたら、クローディアが激怒することまでは予想していない、老人精霊だった。

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