4. とある魔女の修行

 なりたて灰色魔女、リースは思う。

 自分はつくづく、とんでもないひとの弟子になったのだな、と。



 魔女ができることは、時にひとの範疇を越えて、摩訶不思議に至る。

 千日魔女の「時の流れを緩める」という能力もその類に入る。

 彼女の、唯一無二の弟子となった魔女は、普通の魔女修行期間である、百何年の時間を、わずか十年で味わうことになったのだった。

 ……そんな、修行の日々のこと。



 リースは自分の胸に手をあて、心臓の鼓動に意識を集中させる。

 森羅万象を、呼吸に招くように。ゆっくりと息を吸い、さざ波のように空間の音波に鼓動を重ねる。

 そして。

 空間に手を伸ばし、「何か」を掴んだ。そのまま、自分のいる空間に持ってきて――。

「……鎌?」

 今のは、自分の武器を選ぶ工程だった。

 選ぶ、と言っても、空間に波長を合わせることで、個人に合う武器が、主の手に委ねられる。委ねられた主が、その武器の所有者となり、次回からは、主が武器を喚ぶことで、すぐに武器が応えてくれるのだ。


 この一連の動作は「召喚」といい、魔女の十八番でもある。長くこの行為を繰り返すことで、応用がきくようになるのだ。


 そして今、リースの手にある武器は、刃が三日月形の、鎌だ。それもとことん、月を連想させるもの。

 上品なゴールドの刃の部分には、キラキラと星が散りばめられているかのようだ。柄に上るうちに、星が増えていき、持ち手の色はシルバーに変わる。二色でできたオーロラのように、優美な色。


 けれど、武器であることを忘れてはいない。切っ先は鋭利で、力を込めて触れるだけで、簡単に皮膚が裂ける。

 芸術的な、武器だ。

「……なんだか、私にはもったいないような」

「……喚ばれる武器は、そのひとを表す、ともいうわ。まるで、美しさと残虐性を同時に表してるみたいね。この武器」

 そう話した、クローディアの言葉は、夜になってもなかなか脳裏を離れなかった、二日目だった。

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