4. 千日魔女とリース
殺伐とした、灰色の村で、再び暴走を始めたリースの魔力を、「好奇心」から魔力で相殺し、暴走を止めた、なんとも不思議な魔女がいた。
艶のある、ゆるいウェーブのかかった黒髪を揺らめかせ現れた魔女は、なりたてのリースより遥かに、「格上」であることは、「魔女」としての本能が教えた。
血のように紅い瞳は、まるで値踏みするように、こちらを見つめる。
「……へぇ」
ふいに、紅い瞳が、笑うように細められた。
「あんた、名は?」
「……リース、です」
魔女は、ミドルネームも、ファミリーネームも持たない。個の名と、通り名だけだ。流れ込む知識が、そう教える。
また、紅い眼が笑う。
「……真っ白い髪に、金眼か。変な組み合わせだけど、合うわね、意外と」
(……えっ……?)
金眼、とは、自分のことなのか。リースの眼は、紫だったはずだ。……だが、もしかしたら。
勇気を振り絞って、声を上げる。
「あの……、私の眼は……金色になっているんですか」
質問、というよりは、確認に近い。
「? ……ああ。なるほどね。なら、--鏡よ、ここへ」
納得だ、という風な声の後、何の前触れもなく、魔法を発動させた。
それがすごいことなのか、簡単なことなのか、なりたてのリースには分からないし、知識はそこまで教えてはくれない。
そうして現れた鏡の中の自分と対峙して、唖然とする。
--変わり過ぎて、他人を見ているような気分だ。
ボサボサだった、短い黒髪は、どうしたことか、腰まで届く真っ白でまっすぐな艶々な髪へと変化していた。
そして、疎み、恐れられていた紫の瞳は金色の輝きを放っていたのだ。
眼と髪以外が変わっていないが、その二点のインパクトが強すぎて、だまし絵でも見ているかのようだ。
けれど、風が髪を揺らし、鏡に手を伸ばせば、鏡の中の手も近づく。
――代償であり、「魔」からの祝福のようにも、思える。
村を壊し、大切な人を灰にした。それへの罰以外、なんだというのか。
なのに何故か、「魔女」としての「気力」のようなものはみなぎってくるようだ。
だんだんと、視界が霞む。わあわあと、泣きわめきたい衝動に駆られるが、なんとなく、それはいけないことのような気がした。
「……リース、残酷なことを言うけど。--あなたは罪を犯した。今ここで、それを嘆くことは、私が--千日魔女が、許さないわ」
そう。今ここで、泣きわめいても、いいことなど何もない。なくした魂を、再び呼び戻すことも、あってはならないのだ。
それは、「償う」べきであって「嘆く」ことではない。
「……その通り、です」
目にたまった涙を拭う。すると、少し申し訳なさげな声が、心を読んだ、と言う。そして。
「……あんた、思ったより賢いのね。私の言いたいこと、ちゃんとわかってる。……面白い」
--もしかしたら、この時にもう、リースが千日魔女の弟子になることが、決まっていたのかもしれない。
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