3. 魔女になった日
人間は、魔力を持たない。けれど稀に、その欠片の色を宿す者がいる。色があるだけで、魔力は持たない。一部の例外を除いて。
魔力というのは、人間からしたら「凶器」になってしまう。
小さな凶器は、大きくならないうちに滅したい。非力な者が、そのように思うのは当然かもしれない。
……だが、小さな凶器を持つのが、扱い方を知らないこどもだった場合、その凶器と、人の思惑がどう転ぶかは、誰にも予測がつかないことを、大人達は忘れていた。
--シャンティ・アルフィは、強い女性だった。人々の思惑などはねのけて、亡き夫との間に生まれた我が子、リースを愛し、守った。
そして、リースの年齢が十になった頃、人々の思惑は、ついに敵意に変わった。
……シャンティは、村の男達に殺されたのだ。リースの、目の前で。
そして、次にリースを殺そうと伸ばされた腕は--リースによって、切り落とされた。
……魔力の色を宿す人間の例外、それは、何らかのきっかけで、本物の魔力を宿す、というものだ。
そして、小さな凶器は、すべてを巻き込み、暴走した。
暴走の果て、リースは、何より大切で、誰より大好きな、シャンティが、灰と化すのを、その眼に映した。
混濁した意識の中で、少しずつ、悟る。
--ああ、私が、すべてを壊した。村を壊して、母さんも、灰にしたんだ。
--魔女に、なった。
だんだんと、変化に気付く。自分が、「人間」ではなくなったこと。内に魔力を秘めた「魔女」になったということに。
このままでは、また暴走し、誰かの大切な何かを、破壊してしまう。
--だったらいっそ。自分を壊せたら。
けれど、流れてくる魔女としての知識に、「自害は許されない」と告げられる。魔力は尊い、らしい。
魔女は、自分に通り名をつけて、この世界の秩序を守るために行動する。それが、どうあっても避けられない「魔女の義務」なのだと、知識は教える。
死ねない、ということが、ひとりぼっちだということが、こんなにも辛くて、残酷だとは思いもしなかった。
「人間」であった頃は、どんなに辛くても、シャンティを一人にして、死にたくない。そう思っていた。
シャンティがいなくなって、ようやく、自分が本当の意味で「守られていた」ことに気付く。
--どうにでもなれ。
後に、師匠となったクローディアと、灰の村を出た時に、自分への皮肉で、戒めとして。こう通り名を名乗った。
--灰色魔女、と。
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