第4話 かみさまと、しょくじ

 人の子が木のテーブルに着き、パンとスープと剥いて切った果物を口にしている。かみさまは正面に座ってただそれを眺めていた。


「かみさまかみさま、あなたはお食事をなさらなくて良いのですか」

「私に食事は必要ありませんから」

「ですがお供え物は食べ物なども含まれています」

「ええ、そうですね。ですが私の食べるものはもっと別の物なのですよ」


 かみさまに食事があるとすれば。それは人間の動向そのものだ。不幸に涙し、幸福に喜ぶ。ただそれを眺めているだけで体が満たされる。そうして味に飽きたら手をかざす。それだけで人は喜を怒に、哀を楽に変化させるのだ。


「ボクはかみさまと食事がしてみたかったです」


 パンをかじりながら喋るという、あまり行儀の良くないことを、人の子は神の前で行った。一部屋しかないちんけな家に他の人間の気配はない。今神が座っているイスも、万が一の時の来客用に一応置いてあるという風情の代物で、普段は人の子の座っているイスだけが使用されているらしい。


「他に家族はいないのですか」


 いつものように、その大きな瞳を歪ませてやりたくて、神は問いかける。


「父と母はだいぶ昔に死にました」

「辛かったでしょう」

「かみさまがいてくださったから、そうでもありません」


 人の子は小さな体を縮こまらせて、しかし確信に満ちたように言った。自分が孤独であるという現実を知って歪んだ顔に、かみさまは満足して微笑む。


「そうですね、今は私があなたの側にいるのですからね」

「・・・・・・! ええそうです、ボクの目の前では今、かみさまが微笑んでくださっています」


 笑った顔を愛おしいと思う。先ほどの歪んだ顔を楽しいと思う。どちらも神の本心だ。

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